九頭竜の花嫁 ※こちらはマンガシナリオになります。 「第9回noicomiマンガシナリオ大賞」にエントリーしています。

■ 世界観説明 ナレーション

N〈始祖の十二家には代々神魔の力を持つ守護霊獣が存在した〉

N〈その力は空を裂き大地を割り、ありとあらゆる超常の力を有した〉

N〈しかし、現在、守護霊獣を有しているのは上位3位までの序列家のみ。他の守護霊獣たちは十二家の衰退とともに長い年月の中で自然と姿を消していった〉

 竜や虎、鬼などの守護霊獣のシルエット。妖や怪異を蹂躙し、強大な力を見せつけるシーン。

■ 九頭竜家 本家 食卓 夜

 以前、自分が助けた男の子が九頭竜家の守護霊獣であることを知らされ、驚き戸惑う双葉。

セキ「双葉、会いたかったのじゃぁ」

 セキはすりすりと双葉に甘えるように頬を擦り付けて来る。
 それを見た紅蓮は苛立った表情になり、セキを無理矢理双葉から引き剥がす。

紅蓮「おい、セキ! オレの花嫁に馴れ馴れしいぞ⁉」

 紅蓮はセキの首根っこを持ち上げながら鋭い眼光を放ちながら言う。

セキ「ケチなことをぬかすでない。紅蓮の花嫁ということはワシの花嫁でもあるんじゃから頬ずりするくらいは良いじゃろうて」

双葉〈私がセキ君の花嫁でもある……? それはどういう意味かしら?」

紅蓮「すまない、双葉。図々しいことこの上ないこやつの名はセキ。不本意ながらこう見えて我が九頭竜家の守護霊獣なのだ」

 双葉は目をしばたたかせながら小さく感嘆の声を洩らす。

双葉「驚きました。まさかこんなに可愛い男の子が守護霊獣だなんて」

 可愛い、と双葉が言った瞬間、何故か紅蓮が照れるように頬を薄く染めた。

セキ「ワシが可愛いとな? くくく、紅蓮、良かったのう?」

紅蓮「うるさい、黙れ!」

 紅蓮は明らかに動揺している様子であると同時に照れているような様子。双葉はそのことに気付かない。

双葉「紅蓮様、何を怒ってらっしゃるのですか?」

セキ「違う違う、紅蓮はお主に可愛いと言われて照れているのじゃ」

双葉〈えええ⁉ 私、そんな失礼なことを言った覚えはないのですけれども⁉〉

 双葉は動揺しつつもチラッと紅蓮に視線を向ける。
 すると、紅蓮は恥ずかしそうに双葉から視線を横にずらす。明らかに照れている様子であることにようやく双葉も気付く。

双葉〈紅蓮様、照れていらっしゃる? 確かに今の紅蓮様って、可愛らしいかも……〉

セキ「ワシら守護霊獣はこのように人間の姿をしているが、これは仮のもので契約者の姿を間借りしているに過ぎぬ」

双葉「ということは、セキ様のお姿は紅蓮様のもの? はれ? でも子供の御姿のように見えますが」

セキ「守護霊獣は、契約者が正式に当主となるまで、子供の姿をしているのが普通なんじゃ。つまり、先程双葉が可愛いと言ったワシの姿は紅蓮の幼少期のものというわけなのじゃ」

双葉「へえ、そうなのですか……ってまさか⁉」

 双葉は顔を真っ赤にしながら慌てて両手で口を押さえると、恐る恐る紅蓮を見る。
 紅蓮は無言のまま視線を横に向けたまま更に頬の色を赤く染め上げた。
 
双葉「私ったら失礼を……でも、本心からそう思ったので……」

 双葉も恥ずかしそうに紅蓮から視線をずらす。

紅蓮「別に構わない」

双葉「はい……すみません」

紅蓮「謝らなくていい。双葉が悪いわけではないのだから。それに別に嫌なんかじゃない……それどころか」

双葉「なんですか?」

紅蓮「なんでも、ない」

双葉「そう、ですか」

 二人はお互いに目線を合わせることが出来ないまま恥ずかしそうにもじもじする。
 そんな二人を見てセキは呆れたように嘆息する。

セキ〈まるで子供じゃな。やれやれじゃ〉

セキ「さて、顔合わせも終わったことじゃし夕餉にするとしよう。ささ、双葉、大したものはないが遠慮せず食らうがいい」

紅蓮「お前が言うな」

 紅蓮は眉根を寄せながら言う。
 その時、双葉の腹の虫の音が盛大に鳴り響いた。
 紅蓮とセキはキョトンとした後、必死に笑いを堪えた。
 双葉は顔を真っ赤にしながら俯く。
 すると、紅蓮の腹の虫の音も鳴り響く。
 今度は双葉がキョトンとした顔をする。
 そして、双葉と紅蓮は互いに笑い出した。
 そんな二人を見てセキは穏やかな顔で微笑する。

セキ〈紅蓮のこんな笑顔、初めて見るのう〉

紅蓮「双葉、オレもぺこぺこだ。一緒に食べよう」

双葉「はい、遠慮なくいいただきますね」

 セキは二人の微笑ましい姿を見て嬉しそうに微笑む。

セキ「では、ワシもいただくかのう」

紅蓮「お前は少し遠慮するんだぞ。双葉の分がなくなるからな」

双葉「私は少食ですから大丈夫ですよ」

セキ「やかましいぞ、紅蓮! ワシとてその辺はちゃんとわきまえておるわ」

 その後、三人は楽し気に談笑しながら食事を終える。
 食後、紅蓮は改めて双葉に向き直る。

紅蓮「さて、双葉。本題に入ろうと思う。色々と聞きたいこともあるだろうが、まずはオレの話を聞いてくれ」

双葉「はい、分かりました」

双葉〈聞きたいことは山の様にある。でも、一番聞きたいのは何故、私の様な娘を花嫁に望んだということ〉

紅蓮「まずは二つ、双葉にお願いがあるんだ」

双葉「私に出来ることなら何でもどうぞ」

紅蓮「ではまず一つ、双葉にはこれから竜の巫女になってもらいたい」

双葉〈竜の巫女? それはなんなのだろうか?〉

紅蓮「そして二つ、双葉にはオレ達の主になってもらいたいんだ」

双葉「分かりました……へ? それはどういう意味ですか?」

紅蓮「言葉通りの意味だ。双葉にはオレの花嫁になってもらうのと同時に九頭竜家のみならず始祖の十二家の主になってもらいたいんだ」

 紅蓮の言葉の意味が分からずただただ唖然とする双葉であった。