■ 双葉の実家 高天家本家 大広間
大広間には双葉の両親、実妹の白雪の他、大勢の高天家一族の退魔士達がいる。
驚き戸惑う双葉の前で眉目秀麗な少年、九頭竜紅蓮が膝をつき双葉の手を取る。
紅蓮は柔和な笑みを浮かべながら双葉を見つめ呟く。
紅蓮「双葉、今日からオレは君のものだ。どうかオレを双葉の花婿にしてくれないか?」
双葉〈九頭竜家次期御当主様の紅蓮様が私の花婿に⁉〉
双葉は顔を真っ赤にただただ狼狽えるばかり。
─話は少し遡る。
■ 世界観説明 ナレーション
N〈あやかしと怪異が人類の脅威として存在する現代日本〉
人々があやかしや怪異に襲われ、呪い殺され滅びる街や村の光景。
N〈古来よりこの国は霊術や使い魔を駆使する退魔士によって守られ続けて来た〉
あやかしや怪異を祓う退魔士達の姿。
N〈その中でも始祖の十二家と呼ばれる退魔士一族は国家権力でさえ凌駕する権勢を誇っていた〉
始祖の十二家の退魔士達のシルエット。
N〈特に序列1位九頭竜家は神竜を守護霊獣に持ち、その圧倒的な力で実質的なこの国の支配者として君臨していた〉
鋭い眼光を放ち強大な霊力を立ち昇らせる九頭竜紅蓮の姿。
■高天家 双葉の生家 朝
水の入ったバケツが廊下にぶちまけられる激しい音が響き渡る。
母・八重「なにをやっているの、双葉⁉ まったく、こんな簡単な家事すらまともに出来ないなんて愚図にも程があるわよ⁉」
バケツの水を全身に浴び、びしょ濡れの状態で土下座をする双葉。
双葉「も、申し訳ございません、お母様……!」
双葉が顔を上げると、そこには上半分を仮面で覆った顔があった。
近くにいた妹の白雪が侮蔑混じりにくすりと笑った。
白雪「生まれつき醜女で簡単な家事もろくにできない無能だなんて、双葉お姉様ってば、生きていて恥ずかしくないのかしら? 私だったら恥ずかしすぎて、とっくに命を絶ってるわよ?」
双葉「でも、バケツが倒れたのは、白雪が蹴ったせいで……」
白雪「へえ、醜女のぶんざいで私に逆らうんだ……?」
白雪は残酷な笑みを浮かべると、印を結び右手に霊力を込める。
次の瞬間、双葉の仮面から激しい電撃が迸る。
双葉「きゃあああああああ⁉」
電撃を受け床に倒れる双葉。
白雪「謝れ。さもないと、もっと痛い目に遭わせてあげるわよ?」
双葉「……めんなさい」
白雪「はぁ? 全然聞こえないんですけれども?」
わざとらしく耳に手をあてながら白雪は聞き直して来る。
双葉「ごめんなさい……! どうか許して、白雪」
痛みと屈辱に耐えながら双葉は実妹の白雪に土下座をして謝罪する。
白雪は満足げな笑みを浮かべながら双葉の頭を踏みつける。
白雪「あはははは! よく出来ました。罰として今日は一日中御飯抜きよ。でも私も鬼じゃないわ。お腹が減ったら生ごみか庭に生えている雑草くらいなら食べてもいいから。ほら、ありがとうございますは?」
双葉「ありがとう……ございます……!」
双葉〈いつまで私はこの屈辱に耐えなければならないの? ただ醜いという理由だけで、どうして私は実の家族からこんな仕打ちを受けなければならないの……⁉〉
そこに父の正道がやってくる。
双葉〈お父様……〉
父・正道は興味なさげに双葉を一瞥するとすぐに視線を移し白雪に話しかける。
父・正道「白雪、美しいお前が穢れるからそれに触れるんじゃない」
双葉〈穢れる? お父様、それが実の娘に対するお言葉なのですか……?〉
双葉はたちまち絶望に塗れる。
父・正道「ここは空気が淀んでいる。さあ、行くぞ」
正道は眉根をひそめ、片手で口を覆いながら歩き始めた。
白雪「はぁい、お父様」
白雪はくすくす笑いながら、見下すような視線を双葉に向けた。
三人はそのまま立ち去る。
残された双葉は静かに濡れた床を拭き始める。
■ 双葉回想
双葉の誕生。産声を上げる双葉。しかし、赤子である双葉の全身には八頭の蛇の痣が刻まれている。
双葉〈私は全身に八頭の蛇の痣を持って生まれた〉
双葉〈私の生家、高天家は退魔士一族の頂点に君臨する始祖の十二家の一つだ。ただし序列最下位ではあるけれども〉
双葉〈退魔士のエリート一族のせいか、一族の人間はいかなる汚点も許されない。それが呪いに関することなら尚更。その為、私のおぞましい八頭の蛇の痣を両親だけでなく一族の者たちもそれを呪いのように忌み嫌い、物心ついた頃から私は醜女と蔑まれ、おぞましいというただそれだけの理由で、顔に浮かぶ痣を隠すために仮面をつけることを強いられていた〉
双葉〈私は血を分けた実の家族からもまともな人間扱いを受けたことは無い。序列最下位とはいえ、高天家にも絶大な権力があり、どんなに私が虐待を受けようとも行政機関はおろか、誰も私に救いの手を差し伸べようとする者は存在しなかった〉
回想終了。
■ 街外れ 橋の近く 夕暮れ 大禍時
最も闇が深くなる夕暮れ時、大禍時。妖の気配が街の至る場所で濃くなる時刻。
そんな時刻に双葉は橋の上に佇んでいた。
双葉〈どうして私は生きているの?〉
橋の上から川を覗き込むと水面に映し出された自分の姿を見て心の裡で呟く。
そこに巡回中の退魔士の男二人が現れる。
退魔士A「おい、そこの娘。そろそろ妖や怪異が出没しやすい大禍時になる。命が惜しければ早々に家に帰るんだ」
双葉「は、はい、すみません」
そう言って双葉が退魔士達に振り返る。
すると、退魔士の男達は双葉の顔を見るなり顔をしかめた。
退魔士A「高天家の醜女か……。チッ、声をかけて損をしたわ」
退魔士B「あの醜さでは妖や怪異の方が恐れて近寄って来ぬだろうよ。ぎゃはははははははは!」
二人は双葉を嘲ると、そのまま立ち去った。
双葉はギュッと服の端を握り締める。
双葉〈もういい……疲れた。楽になろう〉
双葉は再び橋から川の水面を覗き込む。
双葉〈私が消えても誰も悲しむどころか、むしろ喜ぶ人達しかいないんでしょうね〉
不意に双葉の脳裏に家族や先程の退魔士達の姿が過る。
双葉は橋の欄干を力任せにギュッと掴み上げる。その瞳は怒りと生気に満ち溢れていた。
その時、双葉は近くから妖力を感じ取る。
謎の声〈誰か助けて……!〉
双葉「誰か襲われているの⁉ いけない!」
双葉は声のする方角に向かって走り出す。
向かった先で、和服を着た幼い男の子が妖に襲われている光景に出くわす。
双葉「いけない、助けなきゃ!」
双葉は身構えると霊力を全身に立ち昇らせた。
仮面から電撃が双葉の全身を駆け巡る。
その時、双葉の脳裏に白雪の言葉が過る。
白雪〈その仮面を無理やり外そうとしたり霊力で抵抗しようとすれば、電撃の呪いが双葉お姉様を襲うから変なことは考えないでね〉
双葉〈私はどうなっても構わない!〉
双葉は電撃を喰らい意識を失いかけつつも妖に向かって霊力を放った。
双葉の霊力によって妖は消滅する。
双葉「良かった……」
双葉は和服姿の男の子の無事を確認した後、そのまま地面に倒れ込む。
その時、男の子の頭の両端に二本の角が生えていることに気付く。
双葉「まるで龍神様のような立派な角ね……」
そう呟き、双葉は意識を失った。
それと同時に一人の若い退魔士が慌てた様子で駆けつける。
■ 双葉 夢の中
双葉は暗く沈み込んだ世界で意識を失い漂っている。
突然、目の前に紅蓮の炎を身に纏った竜が現れると、双葉を優しく抱きかかえた。
竜の声「オレが必ず君を救ってみせる。だから、それまで待っていてくれ」
優し気な声に気付きうっすらと目を開く双葉。
双葉「あなたは誰……?」
一瞬だけ紅蓮の顔を垣間見た後、双葉は意識を失う。
■ 高天家 屋敷前 夜
屋敷前で目覚める双葉。
双葉「私、いつの間に家に帰って来たのかしら?」
その時、双葉は夢の中で出会った竜を思い出す。
双葉〈とても優しい匂いがしたわ……〉
双葉は嬉しそうに微笑する。
その時、遠くから双葉を見つめる影があった。
紅蓮と和服姿の男の子である。
紅蓮「すぐ迎えに行くから待っていてくれ、俺の花嫁」
※あくまでここでは謎の人物ということで。
大広間には双葉の両親、実妹の白雪の他、大勢の高天家一族の退魔士達がいる。
驚き戸惑う双葉の前で眉目秀麗な少年、九頭竜紅蓮が膝をつき双葉の手を取る。
紅蓮は柔和な笑みを浮かべながら双葉を見つめ呟く。
紅蓮「双葉、今日からオレは君のものだ。どうかオレを双葉の花婿にしてくれないか?」
双葉〈九頭竜家次期御当主様の紅蓮様が私の花婿に⁉〉
双葉は顔を真っ赤にただただ狼狽えるばかり。
─話は少し遡る。
■ 世界観説明 ナレーション
N〈あやかしと怪異が人類の脅威として存在する現代日本〉
人々があやかしや怪異に襲われ、呪い殺され滅びる街や村の光景。
N〈古来よりこの国は霊術や使い魔を駆使する退魔士によって守られ続けて来た〉
あやかしや怪異を祓う退魔士達の姿。
N〈その中でも始祖の十二家と呼ばれる退魔士一族は国家権力でさえ凌駕する権勢を誇っていた〉
始祖の十二家の退魔士達のシルエット。
N〈特に序列1位九頭竜家は神竜を守護霊獣に持ち、その圧倒的な力で実質的なこの国の支配者として君臨していた〉
鋭い眼光を放ち強大な霊力を立ち昇らせる九頭竜紅蓮の姿。
■高天家 双葉の生家 朝
水の入ったバケツが廊下にぶちまけられる激しい音が響き渡る。
母・八重「なにをやっているの、双葉⁉ まったく、こんな簡単な家事すらまともに出来ないなんて愚図にも程があるわよ⁉」
バケツの水を全身に浴び、びしょ濡れの状態で土下座をする双葉。
双葉「も、申し訳ございません、お母様……!」
双葉が顔を上げると、そこには上半分を仮面で覆った顔があった。
近くにいた妹の白雪が侮蔑混じりにくすりと笑った。
白雪「生まれつき醜女で簡単な家事もろくにできない無能だなんて、双葉お姉様ってば、生きていて恥ずかしくないのかしら? 私だったら恥ずかしすぎて、とっくに命を絶ってるわよ?」
双葉「でも、バケツが倒れたのは、白雪が蹴ったせいで……」
白雪「へえ、醜女のぶんざいで私に逆らうんだ……?」
白雪は残酷な笑みを浮かべると、印を結び右手に霊力を込める。
次の瞬間、双葉の仮面から激しい電撃が迸る。
双葉「きゃあああああああ⁉」
電撃を受け床に倒れる双葉。
白雪「謝れ。さもないと、もっと痛い目に遭わせてあげるわよ?」
双葉「……めんなさい」
白雪「はぁ? 全然聞こえないんですけれども?」
わざとらしく耳に手をあてながら白雪は聞き直して来る。
双葉「ごめんなさい……! どうか許して、白雪」
痛みと屈辱に耐えながら双葉は実妹の白雪に土下座をして謝罪する。
白雪は満足げな笑みを浮かべながら双葉の頭を踏みつける。
白雪「あはははは! よく出来ました。罰として今日は一日中御飯抜きよ。でも私も鬼じゃないわ。お腹が減ったら生ごみか庭に生えている雑草くらいなら食べてもいいから。ほら、ありがとうございますは?」
双葉「ありがとう……ございます……!」
双葉〈いつまで私はこの屈辱に耐えなければならないの? ただ醜いという理由だけで、どうして私は実の家族からこんな仕打ちを受けなければならないの……⁉〉
そこに父の正道がやってくる。
双葉〈お父様……〉
父・正道は興味なさげに双葉を一瞥するとすぐに視線を移し白雪に話しかける。
父・正道「白雪、美しいお前が穢れるからそれに触れるんじゃない」
双葉〈穢れる? お父様、それが実の娘に対するお言葉なのですか……?〉
双葉はたちまち絶望に塗れる。
父・正道「ここは空気が淀んでいる。さあ、行くぞ」
正道は眉根をひそめ、片手で口を覆いながら歩き始めた。
白雪「はぁい、お父様」
白雪はくすくす笑いながら、見下すような視線を双葉に向けた。
三人はそのまま立ち去る。
残された双葉は静かに濡れた床を拭き始める。
■ 双葉回想
双葉の誕生。産声を上げる双葉。しかし、赤子である双葉の全身には八頭の蛇の痣が刻まれている。
双葉〈私は全身に八頭の蛇の痣を持って生まれた〉
双葉〈私の生家、高天家は退魔士一族の頂点に君臨する始祖の十二家の一つだ。ただし序列最下位ではあるけれども〉
双葉〈退魔士のエリート一族のせいか、一族の人間はいかなる汚点も許されない。それが呪いに関することなら尚更。その為、私のおぞましい八頭の蛇の痣を両親だけでなく一族の者たちもそれを呪いのように忌み嫌い、物心ついた頃から私は醜女と蔑まれ、おぞましいというただそれだけの理由で、顔に浮かぶ痣を隠すために仮面をつけることを強いられていた〉
双葉〈私は血を分けた実の家族からもまともな人間扱いを受けたことは無い。序列最下位とはいえ、高天家にも絶大な権力があり、どんなに私が虐待を受けようとも行政機関はおろか、誰も私に救いの手を差し伸べようとする者は存在しなかった〉
回想終了。
■ 街外れ 橋の近く 夕暮れ 大禍時
最も闇が深くなる夕暮れ時、大禍時。妖の気配が街の至る場所で濃くなる時刻。
そんな時刻に双葉は橋の上に佇んでいた。
双葉〈どうして私は生きているの?〉
橋の上から川を覗き込むと水面に映し出された自分の姿を見て心の裡で呟く。
そこに巡回中の退魔士の男二人が現れる。
退魔士A「おい、そこの娘。そろそろ妖や怪異が出没しやすい大禍時になる。命が惜しければ早々に家に帰るんだ」
双葉「は、はい、すみません」
そう言って双葉が退魔士達に振り返る。
すると、退魔士の男達は双葉の顔を見るなり顔をしかめた。
退魔士A「高天家の醜女か……。チッ、声をかけて損をしたわ」
退魔士B「あの醜さでは妖や怪異の方が恐れて近寄って来ぬだろうよ。ぎゃはははははははは!」
二人は双葉を嘲ると、そのまま立ち去った。
双葉はギュッと服の端を握り締める。
双葉〈もういい……疲れた。楽になろう〉
双葉は再び橋から川の水面を覗き込む。
双葉〈私が消えても誰も悲しむどころか、むしろ喜ぶ人達しかいないんでしょうね〉
不意に双葉の脳裏に家族や先程の退魔士達の姿が過る。
双葉は橋の欄干を力任せにギュッと掴み上げる。その瞳は怒りと生気に満ち溢れていた。
その時、双葉は近くから妖力を感じ取る。
謎の声〈誰か助けて……!〉
双葉「誰か襲われているの⁉ いけない!」
双葉は声のする方角に向かって走り出す。
向かった先で、和服を着た幼い男の子が妖に襲われている光景に出くわす。
双葉「いけない、助けなきゃ!」
双葉は身構えると霊力を全身に立ち昇らせた。
仮面から電撃が双葉の全身を駆け巡る。
その時、双葉の脳裏に白雪の言葉が過る。
白雪〈その仮面を無理やり外そうとしたり霊力で抵抗しようとすれば、電撃の呪いが双葉お姉様を襲うから変なことは考えないでね〉
双葉〈私はどうなっても構わない!〉
双葉は電撃を喰らい意識を失いかけつつも妖に向かって霊力を放った。
双葉の霊力によって妖は消滅する。
双葉「良かった……」
双葉は和服姿の男の子の無事を確認した後、そのまま地面に倒れ込む。
その時、男の子の頭の両端に二本の角が生えていることに気付く。
双葉「まるで龍神様のような立派な角ね……」
そう呟き、双葉は意識を失った。
それと同時に一人の若い退魔士が慌てた様子で駆けつける。
■ 双葉 夢の中
双葉は暗く沈み込んだ世界で意識を失い漂っている。
突然、目の前に紅蓮の炎を身に纏った竜が現れると、双葉を優しく抱きかかえた。
竜の声「オレが必ず君を救ってみせる。だから、それまで待っていてくれ」
優し気な声に気付きうっすらと目を開く双葉。
双葉「あなたは誰……?」
一瞬だけ紅蓮の顔を垣間見た後、双葉は意識を失う。
■ 高天家 屋敷前 夜
屋敷前で目覚める双葉。
双葉「私、いつの間に家に帰って来たのかしら?」
その時、双葉は夢の中で出会った竜を思い出す。
双葉〈とても優しい匂いがしたわ……〉
双葉は嬉しそうに微笑する。
その時、遠くから双葉を見つめる影があった。
紅蓮と和服姿の男の子である。
紅蓮「すぐ迎えに行くから待っていてくれ、俺の花嫁」
※あくまでここでは謎の人物ということで。


