真世は早足で近寄ってきて怒鳴りつける。
「なんでこんなところにいるのよ!」
 たじろいだ燈子は、すぐに気を取り直して胸を張る。彼が自分に強さを感じると言ってくれたのだ。真世なんかに負けていられない。

「買い物に来ただけです」
「真世さん、どうさなったの?」
 真世の連れの女性が追いついて声をかけてくる。
「大丈夫、ちょっと先に行ってらして」

 友達らしきふたりの女性を先に行かせ、真世は意地悪な目を燈子に向けた。
「あんたのくせに買い物って。それにその着物、なに? 耳飾りなんて生意気!」
「着物は借りたものです」

「そうよねえ。あんたなんかがこんな上等なもの持ってるわけないし。借りるのだって充分に図々しいけど。光越の袋なんて持っちゃって」
 言うやいなや、真世が紙袋を奪う。

「返してください!」
「なにこれ」
 袋をあさって小箱を取り出し、真世は顔をしかめた。

「香水なんて、ほんと図々しい。これは私がもらってあげる」
「ダメです、返して!」
 手を伸ばす燈子に、真世は小箱を持った手を上げてにやにやした。

「あんまり暴れると落としちゃうわよ」
 真世が指ではさんでぷらぷらさせていると、横から伸びた手がぱっと奪い取った。

「なにするのよ!」
「お前こそ、なにをしている」
 不機嫌な声は颯雅のものだ。
 彼は小箱を燈子に返しつつ割って入り、真世をねめつけた。