休憩を終えると颯雅の衣服を買いに行った。彼は手早く決めて配達を手配する。
 その後は仲良く百貨店を出た。燈子の手には香水瓶が入った紙袋があり、松久夢三の絵が黒いインクで印刷されている。
 買い物に対する紙袋の提供は最近のことで、光越百貨店の客だけがもらえる夢三の紙袋はみなが競ってほしがっているのだという。

 時刻はすでに夕方。これから乗合自動車で戻ったらもう夕飯の時間だ。
 ぎゃん! と聞こえた鳴き声にそちらを見ると、店主が野犬を棒で追い払ったところだった。

 店主は不機嫌そうに店に戻る。骨董品を扱っているようで、壁には舶来品らしきサーベルがかけられていた。
 それを見て、午前中に聞いた話を思い出した。軍の装備としては拳銃もあるのだが、あやかしにはサーベルで斬るほうが効果的らしい。

「野犬か」
「犬のあやかしが出るからみんな怖がっていますね。でも殴るのはかわいそうです」
「すっかり犬の味方だな」
 微笑む颯雅に手を引かれて歩いていると、老婆に道を聞かれて立ち止まった。颯雅が説明するが、老婆は首をかしげてばかりでらちが明かない。

「待っててくれ、すぐそこだから案内してくる」
 彼の言葉に頷き、燈子は道の端に寄って待った。
 なんとなく人の流れを見ていると、見覚えのある人物に気が付いて血の気がひいた。

 真世だ。友達ふたりと談笑しながら歩いてくる。
 隠れないと。
 そう思った直後、真世と目があった。