店員に言われるままに手首を差し出すと、ポンプでしゅっとふきかけられる。とたんに甘みと酸味のあるさわやかな香りが漂った。
「本当にりんごのようです」

「いい香りだ。りんごは好きか?」
「母との思い出があるんです」
 目を細めた燈子に、颯雅は頷いた。

「いただこう。これは持って帰る」
「こちらは見本ですので、新しい物をご用意いたしますね。りんごがお好きでしたらこのようなものもございますよ」
 店員が示した棚にははりんごやりんごの花を象った装身具が並んでいた。

「素敵……!」
 りんごの花のかんざしは軸が金、花弁が白蝶貝、葉はメノウで出来ていた。おそろいの耳飾りもあって、どちらもつやつやと輝いている。

「お前によく似合うな。可憐な中に密やかな強さを感じる」
「可憐!?」
 慣れない誉め言葉に、燈子は身じろぎした。

「店員、これもいただく。かんざしと耳飾り、両方だ」
「かしこまりました。素敵な旦那様でらっしゃいますね。今、新しい物をご用意してまいります」
 ほほ、と笑って彼女は奥へひっこむ。
 旦那様じゃない、と否定をする暇はなかった。

 買ってもらったかんざしと耳飾りをつけると颯雅はことさらに満足そうで、燈子はなんだか照れ臭かった。
 颯雅は別フロアに写真館があることに気が付き、言う。