結局、りんごのように真っ赤な地に白い小花が描かれた反物で振袖を仕立てることになった。熨斗(のし)柄に鞠も描かれ、蝶が舞って賑やかだ。流行のデザインではないが、振袖らしい華やかさと安定感がある。
 フロアには装飾品コーナーもあった。かんざし、ブローチ、スカーフ。色とりどりのそれらはどれも燈子の胸をときめかせた。

「かわいいですね。これも素敵。こっちも……」
「全部買うか」
「ダメです!」
 慌てて止めると、颯雅はまたむっとする。

「お前に似合うものはすべて買っておくべきだ」
「ええ?」
 颯雅の主張が理解しがたく、燈子は戸惑う。

「もうたくさん買っていただいたので、えっと、必要ならまた後日で……」
「それもそうか。またデートをすればいいだけだな」
 機嫌を直した様子なのでほっとしたが、再度のデートを喜ぶそぶりなのが不思議だった。
 ふと見た棚には、た小さな瓶があった。切子のような模様に金の装飾があり、中心には五枚の花弁の白い花。。薄いピンクのポンプがついている。

「かわいい」
 手に取ると、女性店員がすすっと寄って来た。
「それは舶来の品で、りんごの花の香水なのですよ。瓶は西洋で高名なリネ・リリックです」
「リネ・リリックの工房で作られたのか?」
「そうです、銘の入った逸品です。お試しになられますか?」
 燈子は思わず颯雅を見る。笑顔で頷く彼を見て、店員に「お願いします」と言った。