「字を書くのも箸を使うのも慣れないな」
「仕方ありません、人の姿になって間もないのですから。お箸はこうして持つのですよ」
 颯雅の右手に手を添えて持ち方を直させているときだった。

「いいなあ、おしどり夫婦」
「俺もあんな嫁さんほしい」
 どこからともなく聞こえた声に、燈子は思わず固まった。

「どうした?」
「いえ……」
 照れたなんて言えずに燈子はごまかす。声は颯雅にも聞こえていたのだろうに、彼は平然としている。

「明日は半ドンだ、午後は一緒に買い物に行こう」
「買い物ですか」

「俺もお前も、着るものがないからな。ほかにも必要なものがあれば買うといい」
「ありがとうございます」

「初めてのデートだな」
 にこやかな颯雅に、燈子の心臓が跳ね上がる。
 颯雅はなにごともなかったかのように食事を続けるが、燈子はどきどきしてなにを食べても味がしなかった。



第七話 終