『戻るときは自分の意志でできるようだな』
午後はまた軍医の立ち合いのもと、実験をした。
人間になったときの彼の五感は人並みになるようだった。
口づけをすれば人間になれて、彼が念じれば狼に戻れる。回数に制限はないようだが、人間になるには必ず口づけを必要とした。手でだけではなく、頭や頬、胴体でもかまわないようだ。彼からのキスでは人になることはない。
なんども人前で接吻するはめになった燈子は顔を真っ赤にしていたが、軍医も颯雅もいたって真面目で、照れている自分のほうがおかしい気がしてしまう。
誰の接吻でも可能なのか、という実験は颯雅が拒否した。婚約者がいる身でほかの女性と口づけるなどもってのほか、と言われて軍医は引き下がり、燈子はほっとした。男性の口づけでも可能なのか、と軍医がこぼすのを耳にしたが、颯雅が気付かないふりをしたので燈子も流した。
定時前には尚吾郎に呼ばれ、司令室を再訪した。
デスクの前に颯雅とともに並んで立つと、尚吾郎は厳かに告げた。
「本部と検討した結果、公表してよいとの結論に至った。明日には発表し、これまで通り軍務に当たってもらう」
「了解しました」
「人の姿のときには制服を着用するように。すでに用意させた」
「拝領いたします」
尚吾郎の隣に立っていた補佐官が制服を差し出し、颯雅は恭しく受け取った。
「大鶴さんの今後の勤務だが」
燈子の顔からさあっと血の気が引いた。
自分は通訳として雇われたのだ。彼が人になって誰とでも話せるなら必要がない。
午後はまた軍医の立ち合いのもと、実験をした。
人間になったときの彼の五感は人並みになるようだった。
口づけをすれば人間になれて、彼が念じれば狼に戻れる。回数に制限はないようだが、人間になるには必ず口づけを必要とした。手でだけではなく、頭や頬、胴体でもかまわないようだ。彼からのキスでは人になることはない。
なんども人前で接吻するはめになった燈子は顔を真っ赤にしていたが、軍医も颯雅もいたって真面目で、照れている自分のほうがおかしい気がしてしまう。
誰の接吻でも可能なのか、という実験は颯雅が拒否した。婚約者がいる身でほかの女性と口づけるなどもってのほか、と言われて軍医は引き下がり、燈子はほっとした。男性の口づけでも可能なのか、と軍医がこぼすのを耳にしたが、颯雅が気付かないふりをしたので燈子も流した。
定時前には尚吾郎に呼ばれ、司令室を再訪した。
デスクの前に颯雅とともに並んで立つと、尚吾郎は厳かに告げた。
「本部と検討した結果、公表してよいとの結論に至った。明日には発表し、これまで通り軍務に当たってもらう」
「了解しました」
「人の姿のときには制服を着用するように。すでに用意させた」
「拝領いたします」
尚吾郎の隣に立っていた補佐官が制服を差し出し、颯雅は恭しく受け取った。
「大鶴さんの今後の勤務だが」
燈子の顔からさあっと血の気が引いた。
自分は通訳として雇われたのだ。彼が人になって誰とでも話せるなら必要がない。



