「お前だけか、わかってくれるのは。いや、わかってないから来たのか」
 誰? 誰? よくわかんないけど遊んでくれるんだよね?
 そう言いたげなシロマツの頭を撫でて、颯雅は苦笑をもらす。
 シロマツはふんふんと颯雅の臭いをかぎ、なにか気がついたような顔になった。

「わん! わん!」
 嬉しそうな声に、軍用犬たちは耳をぴくっとそばだてた。一頭がおそるおそる近付いてきたから、颯雅はしゃがんで手を伸ばす。
 匂いを嗅いだ軍用犬は、はっとしたように激しくしっぽを振った。
 それを合図にしたかのようにわっと犬たちが駆け寄って来る。

「はは、わかってくれたか!」
 嬉しそうに犬たちを撫でる颯雅の満面の笑顔に、燈子の顔もほろこんでいた。
 偏見に苦しむ彼が犬たちの前では表情を崩している。心を許すその様子に犬たちが羨ましくなった。

「お前たちと一緒にいるときは狼の姿になりたくなるな。いつも朝になったら戻っていたが」
「やってみてはいかがですか?」
「どうやって」
 聞き返されて、燈子は困った。深く考えてはいないから、方法など思い付かない。

「えーっと、念じてみるとか」
「あるいは口づけで戻るのか?」
「え?」
「試してみなくてはわからんだろう?」
 挑発するような色っぽいまなざしに、燈子はどきっとして目を伏せた。

「そうおっしゃるなら、まずは念じてごらんなさいませ」
「そうだな」
 あっさりと引いた彼は、犬に囲まれて目を閉じる。
 しばらくして彼の輪郭がほどけ、気が付けば銀狼がいた。