訓練を眺めながら、燈子は颯雅に聞いた。
「研究所なんてあるんですね」
「ああ。小さい頃からなんども通っている。なんとか人間になれないものかと父が手配してくれて。結局無駄だったがな」
 その声は自嘲するでもなく、淡々としていた。

「俺があやかしの病気に強いとわかったあとは、俺の血からワクチンを作る研究もしているそうだ。人間用は無理だが、軍用犬のワクチンは成功した。だから彼らも対あやかし部隊として活躍してくれている」
「もしそれがもっと早くあったら……」

「お前の母はあやかしからの病気で亡くなったのだったな」
「私をかばったせいなんです。私がいなければ母は逃げられたのに……仇をうちたくてもそれもできなくて」
 しょんぼりと顔を伏せる燈子に、颯雅はふっと優しく笑う。

「昨日は自分のせいにするなとお説教をくれたのにな。俺は今、母君に感謝している。守ってくださったおかげで会えたのだから」
 頭を撫でられ、燈子は驚いた。驚きすぎて動けずにさらに撫でられる。

 胸には温かく甘いものが湧いて、初めての感覚に戸惑うことしかできなかった。
 訓練を終えた犬たちが休憩のために犬舎の自由スペースに入ったのち、颯雅は燈子と共に中に入った。
 いつもならすぐに来る軍用犬たちだが、警戒して颯雅に近寄らない。

「嘘だろお前たち、わからないのか!?」
 ショックを受ける颯雅に、燈子は笑ってしまった。
 シロマツだけはばーっと走り寄って来て颯雅にじゃれつく。