「気を使わせて悪い」
 ぐっとなにかをこらえた彼に、燈子はじれったいと同時に悔しくなった。どうやったら彼の傷心を癒せるのだろうか。
 母について言えることはこれ以上ないだろう。だったら。

「私は結婚相手にうってつけです。あなたに恋をしてないですから。愛し合う人と結婚したら子がほしくなるでしょうけど、私は居場所がほしいだけですから、子がほしいとは思いません。私と結婚すれば、これ以上悩まなくていいのですよ」
「本気で言っているのか?」
 颯雅は再び驚いて彼女を見る。

「本気です」
 こんなことで彼の気持ちが軽くなるだろうか。わからない。だけど、少しでも苦しみをやわらげたい。
「お前は本当に予想外だな」
 ふふっと笑う颯雅の目には隠しきれない苦さが漂っていて、燈子の胸はどうしようもなくしめつけられた。



 翌日、燈子は颯雅とともに出勤した。
 まだ足に痛みはあるが、歩くことに支障はない。
 駐屯所で颯雅とともに下ろしてもらい、車は功之輔を乗せて本部へ行く。

「私に車の運転ができたら、だんな様はこちらに寄らずに本部に行けますね」
『運転手になる気か? 車がもう一台必要になるだろうに』

「あ、そうですね。お高いんですよね?」
『庶民の家が買えるくらいだと聞いている』
 燈子は顎がはずれそうなほど驚いた。