「すまない。今だけ……今だけ、許してくれ」
「……はい」
燈子が頷くと、颯雅はさらにぎゅっと燈子を抱きしめた。
普段は傲慢なほどに強気で、弱みなどないと思っていたのに。
なのに、今は誰よりも庇護が必要に見える。
燈子もまた、颯雅の背に手を回す。少しでも温かさが伝わるといい、そう願いながら。
いくばくかの時間がすぎ、やがて、おずおずと離れた彼は言った。
「俺は産まれただけで人を不幸にした。だから結婚しないと決めた。結婚したら子を望まれるだろう。それは不幸を増やすだけだ。狼を産むなど、女には死ぬほどの苦行だ」
「そうでしょうか」
「実際、母はそれで心を壊したのだ。俺なんかが生まれたせいで」
卑下する彼に、なんとも言えない怒りが湧いて来た。
「産んだせいで心を壊したなんて、言ってほしくないです!」
そんなことを言われるのはつらい。自分のせいで母は死んだのだと、なんども真世たちに言われた。
「生前、母は言っていました。私を産んで嬉しかった。あやかしからかばったのは母の意志、私が無事でよかった。私のせいで病気になったのではない、すべてはあやかしが悪いの、間違えてはいけないわ、って」
だから、彼にも間違えてほしくない。
「颯雅様のお母様、つらかったのだとは思います。だけど、颯雅様のせいじゃない、もちろんお母様のせいでもないです」
「慰めはいい」
「母は、私が『私のせいで』と思うことを苦しく思っているようでした。お母様は、将来、颯雅様が狼に産まれたことを苦しむ姿を思ってつらくなられて、それで心を隠されたのではないですか。颯雅様を疎んじているわけではないと思います」
彼は険しい顔で燈子を見た。が、やがては首を振った。
「……はい」
燈子が頷くと、颯雅はさらにぎゅっと燈子を抱きしめた。
普段は傲慢なほどに強気で、弱みなどないと思っていたのに。
なのに、今は誰よりも庇護が必要に見える。
燈子もまた、颯雅の背に手を回す。少しでも温かさが伝わるといい、そう願いながら。
いくばくかの時間がすぎ、やがて、おずおずと離れた彼は言った。
「俺は産まれただけで人を不幸にした。だから結婚しないと決めた。結婚したら子を望まれるだろう。それは不幸を増やすだけだ。狼を産むなど、女には死ぬほどの苦行だ」
「そうでしょうか」
「実際、母はそれで心を壊したのだ。俺なんかが生まれたせいで」
卑下する彼に、なんとも言えない怒りが湧いて来た。
「産んだせいで心を壊したなんて、言ってほしくないです!」
そんなことを言われるのはつらい。自分のせいで母は死んだのだと、なんども真世たちに言われた。
「生前、母は言っていました。私を産んで嬉しかった。あやかしからかばったのは母の意志、私が無事でよかった。私のせいで病気になったのではない、すべてはあやかしが悪いの、間違えてはいけないわ、って」
だから、彼にも間違えてほしくない。
「颯雅様のお母様、つらかったのだとは思います。だけど、颯雅様のせいじゃない、もちろんお母様のせいでもないです」
「慰めはいい」
「母は、私が『私のせいで』と思うことを苦しく思っているようでした。お母様は、将来、颯雅様が狼に産まれたことを苦しむ姿を思ってつらくなられて、それで心を隠されたのではないですか。颯雅様を疎んじているわけではないと思います」
彼は険しい顔で燈子を見た。が、やがては首を振った。



