颯雅は父が書斎で書き物をしているところへ乱入し、万年筆を奪う。口にくわえたそれで、必死に紙につづった。
軍に入る、と。
最初、功之輔は反対した。世間が彼をどう見るかわからない。
だが、颯雅は時間をかけて、必死に字をつづる。
「俺が生まれた意味をくれ」
カタカナで書けば字数は少なくて済む。
だが、漢字を使った。
俺は人だ。その矜持を示すために。
書かれた文字は汚く、万年筆をずっとくわえているのでよだれも垂れて、汚らしい。だが、それだけに真に迫るものがあった。
功之輔はいたましげに眉を寄せ、軽く首をふった。
額に手を当てて考え込むことしばし、彼は決然と顔を上げた。
「やれるだけのことはやってみよう」
功之輔はあちこちに手をまわした。公爵の子息であり、先帝の血筋。帝の口添えもあり、入隊を許された。
異例となる狼の入隊に、軍では戸惑いを隠せなかった。
最初は扱いに苦慮していたものの、颯雅があやかしを退治すると風向きは変わった。
あやかしは高確率で病原菌を持っており、ケガは死の危険と隣り合わせだ。
だが、颯雅はあやかしからの傷を負っても病気にならず、だから誰よりも接近して戦えた。
神の血を引くからだ、と人々は持てはやした。
その瞬間だけ、かろうじて生まれた意味を味わえた。人の役に立つために狼として生まれたのだ、と。母の血筋を誇っていいのだ、と。
軍に入る、と。
最初、功之輔は反対した。世間が彼をどう見るかわからない。
だが、颯雅は時間をかけて、必死に字をつづる。
「俺が生まれた意味をくれ」
カタカナで書けば字数は少なくて済む。
だが、漢字を使った。
俺は人だ。その矜持を示すために。
書かれた文字は汚く、万年筆をずっとくわえているのでよだれも垂れて、汚らしい。だが、それだけに真に迫るものがあった。
功之輔はいたましげに眉を寄せ、軽く首をふった。
額に手を当てて考え込むことしばし、彼は決然と顔を上げた。
「やれるだけのことはやってみよう」
功之輔はあちこちに手をまわした。公爵の子息であり、先帝の血筋。帝の口添えもあり、入隊を許された。
異例となる狼の入隊に、軍では戸惑いを隠せなかった。
最初は扱いに苦慮していたものの、颯雅があやかしを退治すると風向きは変わった。
あやかしは高確率で病原菌を持っており、ケガは死の危険と隣り合わせだ。
だが、颯雅はあやかしからの傷を負っても病気にならず、だから誰よりも接近して戦えた。
神の血を引くからだ、と人々は持てはやした。
その瞬間だけ、かろうじて生まれた意味を味わえた。人の役に立つために狼として生まれたのだ、と。母の血筋を誇っていいのだ、と。



