「燈子! どこよ!」
 叫ぶように探す真世の声に、燈子ははっとした。
 燈子が女学校から帰って来たらしい。
 障子をばあん! と開けた袴姿の真世は燈子を怒鳴りつける。

「こんなところでさぼって!」
「掃除をしていました。なんの御用ですか」
「今日までの宿題、やってなかったじゃない!」

 差し出されたのは着物の生地。ピンク色に赤と白の牡丹が華やかに描かれている生地だった。かわいくて華やかな真世によく似合うだろう。
 宿題である着物の作成を真世に丸投げされていたが、燈子は拒否してやっていない。

「お嬢様がやらなくては意味がありません」
「また言いわけ! やりなさいよ!」
「私は裁縫が苦手です。前も代わりに巾着を作ったとき、先生に怒られましたよね」

 代わりに作れと布を投げつけられて腹が立ったから、並み縫いよりも幅広く、二センチくらいの縫い目で作って渡したら、確認もせずに先生に提出して怒られたらしい。
 そのときは、姉に材料をとりあげられて作ったものを押し付けられた、と虐待される妹を演じてごまかしたと言う。

 懲りずにそれを繰り返したおかげで女学校での自分の評判はしこたま悪い。が、行くわけでもない女学校での評判なんて知るか、と思って放置している。

「あんたが上手くなればいいだけよ。なんで私のために努力しないの!」
 怒る真世に、燈子はあんぐりと口を開けた。どこの世界に自分をいじめる人のために努力する人間がいるというのか。
「やらないと母親の形見を捨てるわよ」
 燈子は顔をひきつらせた。このいじめはなんどもやられてきた。真世は意地悪に腐心し、燈子の心壊すことに余念がない。