「大丈夫です」
 燈子は彼に向き直った。
『ありがとう。目を閉じてくれないか』
「はい」

 燈子が目を閉じると、彼が動く気配があった。そっと慎重に触れられた口元は毛がやわらかだった。
 次の瞬間。

「成功だ!」
 喜ぶ声に目を開けると、裸の颯雅が目の前にいた。

「きゃあああ!」
 燈子は悲鳴を上げて顔を覆う。
「しまった! 悪い!」
 彼は慌ててクッションで隠す。

「どうされました!?」
 麺棒を持ったスエが慌てて駆け込み、燈子と颯雅は固まった。
「若様!? 燈子様になにを!」
「誤解だ!」
 慌てる颯雅に、スエは麺棒を振り上げる。

「若様と言えど、無体は許しません!」
「だから誤解だ!」
 あわあわする颯雅がおかしくて、燈子はこらえきれずに大きな笑い声をあげた。

 事情を説明すると、スエは「人騒がせな!」と憤慨した。
 その後は父から借りた着物に着替えた颯雅と一緒に並び、スエにお説教をもらった。