中はすっきりした洋室だった。低い本棚とベッドがあるだけ。
 本棚には本がいくつか入っていて、背表紙の上部がぼろぼろになっていた。

『……なにしに来た』
「言いましたよね、食事を持ってきました。テーブルとかないんですね」
『犬みたいなもんだからな、必要ない』
「……卑屈になってますね」
 仕方なく床に置いて、燈子は彼を見る。

『俺は犬と同じだ。食事は箸を使わず、皿から食う。みっともないだろ』
 燈子は目をぱちぱちさせた。と同時に得心がいった。彼が食事の同席を拒むのは、犬のようだと思われたくなかったからか。

「下手な慰めは必要ないでしょうから言いますが、犬が犬らしくごはんを食べててもなにも思いません。同様に、颯雅様が颯雅様のありようのままに食事をなさっていても、なにも思いません。おいしく食べてほしいな、とは思います」
『お前は本当に言葉を飾らないな』
 心の底からのあきれた声が返って来た。

「出て行くのでごゆっくりどうぞ。でも私は、颯雅様は犬でも狼でもなく颯雅様だと思っています」
 颯雅は燈子を見つめ、彼女はまっすぐに視線を受け止めた。
 しばらく見つめ合ったあと、颯雅の目が細まった。嬉しげに見えるのは気のせいだろうか。

『明日からは俺も食堂に行く』
「嬉しいです」
 颯雅が一緒に食事をすると宣言した。ただそれだけのことなのに、燈子の胸はなぜか晴れやかだった。