翌日、現れた颯雅は白銀の狼に戻っていた。うなだれた彼のひげもしっぽもしおれて垂れている。
「颯雅様……」
『驚いたか。起きたら狼に戻っていた』
「そうなのですか」
 それ以上、なんと言えばいいのかわからなかった。

 燈子は休暇届を出しているので颯雅と功之介を見送り、家で過ごした。
 颯雅は通訳がいなくて不自由していないだろうか。困っていればいいのに、と思ってしまい、恥ずかしくなった。

 暇を持て余して車を洗い終わった運転手に運転を教えてほしいと頼んだら、若奥様のすることではないですよ、と笑われた。運転ができれば乗合自動車の運転手にもなれそうなのにと思うが、どのみち足を使うので今は無理なのだと知った。
 家事を手伝おうとしたらスエに若奥様にはさせられない、足をいためているのだから休んで、と断られた。

 そうなると気になるのは離れにいる颯雅の母だ。
 勝手に見舞いにいくのは失礼だろう。心を壊していると説明を受けたが、どのような状態だろうか。原因もなにも説明されておらず、わからないことだらけだ。

 颯雅との婚約は仮のものだ。自立できたら解消するのだから深入りしないほうがいい。そう思って自分を止めるのだが、どうしても気になってしまう。借りた本を読んでいてもずっとそわそわしていた。

 夕方、帰宅した颯雅はそうそうに自室に引き上げた。
 夕食の時間になると、燈子は颯雅に会いたいからとスエに言って彼の食事を運んだ。会いたいのは嘘だが、せめてこの程度のお手伝いはしたかった。
 ドアをノックして、食事を持ってきたことを告げる。

『ドアの前に置いてくれ』
「ご自身では部屋に持っていけないですよね。入りますよ」
『なにを勝手に!』
 怒る彼の声を無視して、ドアを開けて入る。