生まれたときから狼の姿だったという颯雅。初めて人の姿になったのを見た父の気持ちがどんなものなのか、まったく想像ができない。
「だが、どうして急にこんなことに」
「わからない。転んだ彼女を助けようとして一緒に倒れたあと、気が付いたらこうなっていた」

「燈子さんがなにかをしたのか?」
「なにもしてないです」
 言いながら、思い出す。
 あのとき、微かに彼と唇が接触した気がする。もしかしてそれが原因で?
 そう思って、かあっと顔が熱くなる。あれは接吻(せっぷん)したことになるのだろうか。

「不思議なことに二本足で歩けるし、普通にしゃべれる」
「京には会いに行ったか?」
「いや。会ったところで意味がないだろうから」

 沈んだ声に、燈子は戸惑った。
 離れで病気療養している彼の母にはいまだに会っておらず、お見舞いも許されていない。自分は他人だが、子である彼が会っても意味がないとは、どういうことだろう。

「今のお前なら、あるいは……」
 言葉を濁す功之補に、颯雅は首を振る。
 燈子はなにも聞くことができずに黙っているしかできなかった。

「京のことはまた考えるとしよう、今日は祝いだ!」
 むりやりに明るい声の功之輔に、
「みんなでお祝いしましょう!」
 燈子もまた、明るく賛成した。