婚約者は狼神!? 帝国の守護神の通訳として雇われた私、なぜか溺愛されてます!

 事業が傾いていることもあり、父はひたすら、「俺は不幸だ」と呟いていた。妻を亡くした自分を不憫に思ってもらうどころか非難されてかわいそうなのだという。
 新しくできた母と妹は、燈子を迫害した。
 最初、子どもだった燈子はわけがわからず、泣いた。
 父に相談したら、新しい母の言うことを聞きなさいと言われた。

 亡き母が病床で「笑顔を見せて、笑う門には福来るというでしょう?」と言ったことがあったから必死に笑顔を作った。
だが、燈子がにこにこと笑顔でかわしたせいで、いじめは激化した。

 母の形見や写真は目の前で焼き払われ、かんざしや着物などは売り払われた。部屋はとりあげられ、物置を自室とされた。
 苦しそうな顔では自分を守ってくれた母に申し訳がない。だから笑顔でいようと努めたのだが、麻子も真世もそれが気に入らないらしい。

 そうとわかったのちには、彼女らの前ではしおらしい態度を心がけた。反抗してのいじめを悪化させる必然性などない。
 彼らは家族であって家族ではない。実母がいない今、もう燈子はひとりきりだ。
 麻子に命じられるままに女中の仕事をした。

 燈子をかばった当時の女中は解雇され、新しく女中が来た。
 当然のように孤立し、寄る辺のない孤独にさいなまされた。小学校を出たあとは友達と会う機会もなく、孤独は深まった。

 二十歳の成人になったら家を出て、あの人たちの手の届かないところで幸せになってやる。それが産んでくれた母への恩返しだ。
 そう思い、今は大人しく働いている。
 新聞を片付けようとして、ふとその隅にある求人に目が行った。

 募集は工員や職人などの男性ばかり。女性の求人は少ない。開国以来普及しつつある電話の交換手や百貨店(デパート)の店員、バスの車掌であるバスガールは人気だが、女学校を出た女性でないと難しいらしい。
 真世は女学校に通っているが、燈子は通わせてもらえない。これも麻子のいじめの一環だ。

「燈子! どこよ!」
 燈子ははっとした。
 真世が女学校から帰って来たらしい。