夕方に訓練を終えると、ふたたび指令室に呼ばれた。
 尚吾郎によると、目撃者がいたために颯雅の正当防衛が立証され、燈子に異能を向けた益本は謹慎を命じられたという。
 帰りのタクシーの中で、燈子はほっとしていた。

「颯雅さんの無実が証明されてよかったです」
『あいつは素行が良くなかったからな、反省させるいい機会だ』
「前から絡まれていたのですか?」
『まあ、そうだな』
 ごまかすような颯雅に、燈子は胸を押さえた。

 思えば初めて会ったときにも口汚く罵られた。帝国の守護神にあのような態度が日常茶飯事、それが許されてきたのだと思うと腹立たしい。
 颯雅はめくじら立てて騒ぎにしたくなかったのだろう。

 だが、そんな彼が自分をかばって懲らしめてくれた。それが特別に思えて嬉しい。
 ……あれ、そういえばあのとき、婚約者って言われた。
 思い出して、急に落ち着かなくなった。偽装婚約をしたのだからおかしくないのに、結婚を否定していた彼からそう言われるなんて。
 そわそわしていると、颯雅が不思議そうに見て来た。

『どうした? 足が痛いか?』
「いえ……」
 言葉を濁して、言い訳を探す。

「シロマツが気になって」
 嘘ではないから、そう言った。
『犬は苦手なのだろう?』
「最近は好きになってきました」