「報告があった以上は調査が必要だ。中尉は大尉が狼の本能に目覚め、獣になったのではないか、あるいはあやかしに汚染されたのではないかと言っていた。昨今、犬があやかし化する事象が増えている、危険を放置することはできない」
『それで呼ばれたわけですね』
 颯雅は納得する。

 公爵子息であり隊長でもある自分を迂闊な者に調査させるわけにはいかない。だから司令官が自ら颯雅たちを呼び出したのだ。
 燈子と颯雅はありのままに出来事を伝え、尚吾郎はそれをメモをしていった。

「大尉たちの言い分が正しければ、中尉は厳重に処分しなくてはならん。異能を持つ者が民間人に力を振るうなど許しがたい」
 尚吾郎はため息まじりにこぼす。
 ぜひともそうしてくださいと言いたいが、燈子は言えなかった。尚吾郎は司令をするだけあって威厳があり、颯雅に言うようにぽんぽんと物を言えず、通訳に徹した。

 調べを終えて部屋を出た燈子は拳を握りしめて震えた。
「悔しい! どうして悪く言われないといけないの! よりによってあやかしだなんて!」
 憤慨する燈子に、颯雅は苦笑をもらした。

『泣いたり怒ったり、忙しいやつだな』
「だって! 悪いのはあっちなのに!」

『お前がそう言ってくるだけで報われた気分だ』
「ああ、私がシロマツと話ができたらシロマツの証言を伝えるのに」
 憤る燈子に、颯雅はますます楽しそうに笑った。
 遅れて参加した訓練では颯雅はいつも通りに振舞っており、帰るタイミングを失って見学していた燈子は彼の心の強さに感心した。