婚約者は狼神!? 帝国の守護神の通訳として雇われた私、なぜか溺愛されてます!

「颯雅様はそんなことしてません!」
 とっさに燈子は反論したのだが。
『わきまえろ。お前は通訳だ』
 颯雅にとがめられ、燈子ははっとした。

「申し訳ございません」
「次からは通訳に徹するように」
 冷徹な尚吾郎の声に、燈子は、はい、と答える。

「それでこれは事実か?」
『そのようなことはしておりません』

「報告があった以上は調査が必要だ。中尉は大尉が狼の本能に目覚め、獣になったのではないか、あるいはあやかしに汚染されたのではないかと言っていた。昨今、犬があやかし化する事象が増えている、危険を放置することはできない」
 燈子はいらっとした。とんでもない言いがかりだ。が、先ほど注意されたばかりなので出かかった反論を飲み込む。

『それで呼ばれたわけですね』
 颯雅は納得する。

 公爵子息であり隊長でもある自分を迂闊な者に調査させるわけにはいかない。だから司令官が自ら颯雅たちを呼び出したのだ。

「大鶴さんが大尉を操っている可能性にも触れていた。どうかね大鶴さん」
「絶対に違います!」
『どれだけ阿呆(あほう)なのだ、あいつは』
 あきれた颯雅の言葉は翻訳しなかった。

 燈子と颯雅はありのままに出来事を伝え、尚吾郎はそれをメモしていった。


「大尉たちの言い分が正しければ、中尉には厳重な処分が必要だ。異能を持つ者が無辜(むこ)の民間人に力を振るうなど許しがたい」
 尚吾郎はため息まじりにこぼす。
 ぜひともそうしてくださいと言いたいが、燈子は言えなかった。尚吾郎は司令をするだけあって威厳があり、颯雅に言うようにぽんぽんと物を言えない。

 調べを終えて部屋を出た燈子は拳を握りしめて震えた。
「悔しい! どうして悪く言われないといけないの! よりによってあやかしだなんて!」
 憤慨する燈子に、颯雅は苦笑をもらした。

『泣いたり怒ったり、忙しいやつだな』
「だって! 悪いのはあっちなのに!」

『お前がそう言ってくるだけで報われた気分だ』
「犬と話ができたらシロマツの証言を伝えるのに」
 憤る燈子に、颯雅はますます楽しそうに笑った。
 遅れて参加した訓練では颯雅はいつも通りに振舞っており、帰るタイミングを失って見学していた燈子は彼の心の強さに感心した。