『新聞は記事を売るために大袈裟に書いているし、国民が見ているのは帝国の守護神という虚像だ。お前はじかに俺を見て、認めてくれた。それが嬉しいんだ』
 燈子の頬は自然と緩み、颯雅は前足で鼻をかいた。

『お前はしばらく仕事を休んだほうがいいな』
「大丈夫です」
『周りが気をつかう。休め』
 燈子は驚いた。実家では誰も自分に気をつかわなかったから、無理をするのが当たり前だった。

「そんなこと言われたの初めてです。ありがとうございます」
『事務室で休暇届を貰って出せ。案内する』
 軽く尻尾をふって、彼は先導する。
 事務室で休暇届をもらい、事務員に指示をされながら記入していく。

「隊長」
 呼ばれた颯雅が顔を上げると、訓練士のひとりがいた。
「シロマツのことでご相談が……と、すみません、今はよくなかったですか?」
 燈子に気が付いた彼は遠慮しようとしたのだが。

『かまわん、話せ』
 颯雅の言葉を、燈子は通訳した。

「ありがとうございます。シロマツは檻の鍵を開けて脱走したりなどして軍用犬には向いていません。払い下げたほうがいいと上申いたします。よろしいでしょうか?」
 檻を開ける、と聞いて燈子は驚いた。思ったより犬は賢いらしい。

『今日も命令を聞かずに脱走したからな……了承する。書類を用意してくれ』
 燈子がそれを伝えると、彼はほっとしたように頭を下げた。
「大事にしてくれる人を探します。やはり通訳してくださる方がいると話が早い。ありがとうございます」
 前半は颯雅に、後半は燈子に言い、彼は去って行った。