「ですけど……異能があれほど怖いものとは思いませんでした。訓練も危険と隣り合わせで。軍の皆様はあんな危険にさらされながら私たちを守ってくださっているのですね」
『それをわかってくれただけで充分だ』
 颯雅の目が嬉し気に細まったのを見て、燈子の瞳からはぽろりと涙がこぼれた。

『なぜ泣く!?』
「だって、それなのにあの人は犬なんかってばかにして」

 訓練を見て、世話をしているからわかる。
 犬も人間も、訓練は大変だ。
 特に颯雅はいつでも真剣だった。
 人間相手の実戦形式の訓練では、武器をもった隊員を相手に身ひとつで戦うのだから、ほかの隊員よりもケガをする可能性が高い。
 それでも俊敏な体を活かし、隊員の練度を上げるためにあやかし役を引き受けている。

「颯雅様は人なのに。この国を、みんなを守ってくれているのに」
 ぽろぽろと涙をこぼす燈子の頬を、温かいものがべろりと舐めた。
 驚いて顔を上げると、はっとした顔の颯雅がいた。

『すまない、つい。こんなこと、誰にもしたことはないんだが』
「はい……」
 返事をしながら、燈子は鼻をすすった。

『俺は小さい頃から犬よばわりされてきた。俺が人語を解さないと思って目の前で罵倒されたこともある。今さら気にしない。だからお前も気にするな』
 言って、颯雅はふっと笑った。
『怒ってくれたのは認められたようで嬉しかったがな』
「新聞でもたくさん書かれています。たくさんの人がわかってくれていると思います」