先に動いたのは益本だった。腕を振って異能による衝撃波を投げ、颯雅はそれを避ける。
『民間人のいる場で異能(ちから)を使うなど!』
 颯雅が吠えると、益本はまた口を笑みに歪めた。

「世間知らずのお嬢様にも躾が必要だな」
 益本はさらに衝撃波を投げた。颯雅は狙われたのが燈子だと気付いて飛び出す。
 颯雅はもろにくらって吹き飛び、地面に叩きつけられた。

「颯雅様!」
 燈子は思わず駆け寄っていた。
『大丈夫だ』
 立ち上がった颯雅の目は怒りに燃えている。

『よくも我が婚約者を狙ったな』
「これに懲りたらもうでしゃばるなよ、お犬様、お嬢様」
 せせら笑う益本に、颯雅はとびかかる。押し倒された益本は四肢を抑えられ、反撃どころか起き上がることもできない。

「嘘だろ、この俺が……!」
『部隊は違えど上官に異能をふるった。反逆罪で殺されても文句は言えないぞ』
 ぐるる、とうなる颯雅の牙が益本の喉元に迫る。

「やめろ、仲間を殺すのか!」
「先に攻撃したのはあなたじゃないの。卑怯者。ずるくて姑息で、あんたなんかぜんぜんかっこよくないんだから!」
 燈子はすかさず反論した。

「やめさせろよ、婚約者だろ、言うことを聞かせろ!」
「やめてほしいなら謝罪することよ。どう考えてもあなたが悪いわ」
『謝罪程度でやめていいのか、優しいな。俺はこいつを引き裂いてやりたい』
 首を狙って唸る颯雅に、益本の血の気はどんどん引いて行く。