婚約者は狼神!? 帝国の守護神の通訳として雇われた私、なぜか溺愛されてます!

「人間様の邪魔するんじゃねえ、犬っころが!」
 男はいつだったか颯雅を侮辱した兵士だった。
「なんてひどいことするの!」
 燈子は思わず怒鳴っていた。

「できの悪い犬に躾をしてやっただけだ」
「蹴るのはしつけじゃないです!」
「女がでしゃばるな!」
 ずかずかと近寄った男は燈子をどん! と突き飛ばす。彼女はよろめいて地面に倒れた。

『大丈夫か!』
 遅れて追って来た颯雅が駆けより、燈子の隣に立った。
 燈子は立ち上がり、着物についた砂を払った。

「すみません、お借りしたお着物が汚れてしまいました」
『そんなものはいい、それより』
 颯雅は全身の毛を逆立てて低く唸り声を上げた。兵士を睨んで眉間にしわを寄せ、牙をむき出しにしている。その迫力に、燈子のほうが怯んだ。

『国民を守るべき軍人が婦女子に手を挙げるとは、見下げた根性だな』
 がう、がう! 吠え声は明らかに怒声。
「大尉、どうされました? そんなに唸って、ますます犬っぽくなられましたね」

 男のせせら笑いに、燈子はかちんときた。
「あなた誰よ、そんな侮辱が許されると思うの!?」
「俺は異能部隊の益本(ますもと)だ。犬なんかよりよっぽどあやかしを(ほふ)って来たぜ」

 燈子は顔をしかめた。異能部隊の隊員は普通にはない力を持っていて、だから自尊心の強い人が多いと聞いたことがある。

「なのに犬が帝国の守護神だと? 笑わせるな! 帝の血筋で公爵子息だからってひいきされやがって!」
 益本のぎらぎらする憤怒と、颯雅の燃えるような憤激がぶつかりあう。

 じりじりとにらみあうふたりに、燈子は気圧されてなにも言えない。
 シロマツもまた、ただならぬ空気に尻尾をまいて燈子に寄り添っている。