「西洋医学ですね。とっても小さくて目に見えないのだとか」
『それらが原因の病気を予防したり治したりする薬だ。どんどん開発が進み、あやかし由来の病も防げるかもしれないと注目されている』

 燈子は目をみはった。それがあれば母も助かったのでは、と胸がつきんと痛む。
「早く実現するといいですね。教えてくれてありがとうございます」
 礼を言うと、颯雅はぷいっと横を向いた。

『そんなに素直だと調子が狂うだろうが』
「……もしかして、照れてますか?」
 颯雅はこちらを向かずに、違う、と答えた。
 それがなおさら照れて見えて、燈子はひそかに笑みをこぼした。



 お昼を知らせる大砲が鳴り、颯雅たちは犬たちを犬舎に戻すべく引き連れて行った。
 途中、シロマツ号がたたっと走り出す。
『シロマツ、戻れ!』
 颯雅が命じるが、シロマツは無邪気に走っていってしまう。

「私が行ってきます」
 燈子は小走りにシロマツを追った。
 追いかける燈子を見たシロマツはさらに走る。「おっかけっこ楽しい!」と言わんばかりに、立ち止まって様子を窺い、近付いたらまた走る。

「待って! そんなんじゃ軍用犬に不合格になるわよ!」
 シロマツはやがて、本館から出て来る兵士たちの前で立ち止まった。
 兵士のほとんどは素通りしたのだが、最後にひとりだけ残り、シロマツをにらみつける。
 誰? と言いたげに首をかしげるシロマツを、男は蹴飛ばした。シロマツは「ぎゃん!」と鳴いて地面に転がり、燈子のそばに駆けて戻る。