婚約者は狼神!? 帝国の守護神の通訳として雇われた私、なぜか溺愛されてます!

「西洋医学ですね。とっても小さくて目に見えないのだとか」
『ワクチンはそれらが原因の病気を予防する薬だ。どんどん開発が進み、あやかし由来の病も防げるかもしれないと注目されている』

 燈子は目をみはった。それがあれば母も助かったのでは、と胸がつきんと痛む。
『似たようなもので血清があるが、こちらも開発中だ。大雑把に言うとワクチンは予防するもの、血清はあとで使うものだ。もうすぐ完成するらしい』
「早く実現するといいですね。教えてくれてありがとうございます」
 礼を言うと、颯雅はぷいっと横を向いた。

『そんなに素直だと調子が狂うだろうが』
「……もしかして、照れてますか?」
 颯雅はこちらを向かずに、違う、と答えた。
 それがなおさら照れて見えて、燈子はひそかに笑みをこぼした。



 お昼を知らせる大砲が鳴り、颯雅たちは犬たちを犬舎に戻すべく引き連れて行った。
 途中、シロマツ号がたたっと走り出す。
『シロマツ、戻れ!』
 颯雅が命じるが、シロマツは無邪気に走っていってしまう。

「私が行ってきます」
 燈子は小走りにシロマツを追った。

 追いかける燈子を見たシロマツはさらに走る。「おっかけっこ楽しい!」と言わんばかりに、立ち止まって様子を窺い、近付いたらまた走る。ぱかっと開けた口から舌を出している姿は笑っているかのようで、はっはっはっと音を立てる息遣いが興奮度合いを示しているようでもある。

「待って! そんなんじゃ軍用犬に不合格になるわよ! シロマツ、ステイ!」 
 シロマツは燈子の指示を無視する。
 軍用犬はもともと訓練士以外の指示は聞かないよう訓練されているが、訓練士の指示すら聞かないシロマツが燈子の指示などなおさら聞くはずがなかった。

 シロマツはやがて、本館から出て来る兵士たちの前で立ち止まった。
 兵士のほとんどは素通りしたのだが、最後にひとりだけ残り、シロマツをにらみつける。
 誰? と言いたげに首をかしげるシロマツを、男は蹴飛ばした。

「ぎゃん!」と鳴いて地面に転がったシロマツはすぐに燈子のそばに駆け寄り、不快を振り払うように、ぶるる、と体を震わせた。