「綾月大尉の婚約者なんだと」
「ふん、公爵家で准将の息子ともなると扱いが違うな。午前は犬遊び、午後は女連れ。訓練をなんだと思ってんだ、犬っころが」
「やめろよ」
燈子の視線に気付いた男に止められ、文句を言っていた男は口をつぐむ。ぎろりとにらまれ、燈子は目をそらした。にらみ返して印象を悪くする必要はない。が、颯雅が侮られているのは許しがたく、むかむかした。
燈子は毎日出勤するが、最初、通訳以外はすることがなかった。
いつしか通訳の必要がない時間は訓練士に交じって犬の世話をするようになっていた。餌やりも犬舎の掃除も、燈子には苦ではない。実家で真世たちにこきつかわれいじめられたことに比べれば、国のためだからやりがいがあった。
ひと口に軍と言ってもいろんな仕事があって成り立つのだな、と感心するばかりだった。
割烹着を着た燈子が汚れもいとわず働くので、訓練士たちはすぐに打ち解けた。
いつものように出勤した燈子は、門の前でまた廉次に挨拶された。身なりが整った彼はさすが大手の新聞社の記者といったたたずまいだ。一方の士郎はどんどん人相が悪くなって、なにか焦っているように見えた。
燈子は彼らに犬の世話係として雇われたと教え、本当のことは秘密にしている。颯雅の婚約者として知られることも避けたかった。
公爵子息の婚約は彼らにとっては充分においしいネタになると颯雅から説明された。しかも帝国の守護神であり狼である彼ならばなおさらだ。そのうち婚約解消するのだから騒がれない方がいいという彼の配慮により、婚約は公表されていない。
午前の犬の訓練を終えたあと、少し時間が余ったからと犬たちの自由時間となった。
とたんに走り出すもの、仲間とじゃれ合うもの、地面に横になるものなど、それぞれが楽しそうだ。
「ふん、公爵家で准将の息子ともなると扱いが違うな。午前は犬遊び、午後は女連れ。訓練をなんだと思ってんだ、犬っころが」
「やめろよ」
燈子の視線に気付いた男に止められ、文句を言っていた男は口をつぐむ。ぎろりとにらまれ、燈子は目をそらした。にらみ返して印象を悪くする必要はない。が、颯雅が侮られているのは許しがたく、むかむかした。
燈子は毎日出勤するが、最初、通訳以外はすることがなかった。
いつしか通訳の必要がない時間は訓練士に交じって犬の世話をするようになっていた。餌やりも犬舎の掃除も、燈子には苦ではない。実家で真世たちにこきつかわれいじめられたことに比べれば、国のためだからやりがいがあった。
ひと口に軍と言ってもいろんな仕事があって成り立つのだな、と感心するばかりだった。
割烹着を着た燈子が汚れもいとわず働くので、訓練士たちはすぐに打ち解けた。
いつものように出勤した燈子は、門の前でまた廉次に挨拶された。身なりが整った彼はさすが大手の新聞社の記者といったたたずまいだ。一方の士郎はどんどん人相が悪くなって、なにか焦っているように見えた。
燈子は彼らに犬の世話係として雇われたと教え、本当のことは秘密にしている。颯雅の婚約者として知られることも避けたかった。
公爵子息の婚約は彼らにとっては充分においしいネタになると颯雅から説明された。しかも帝国の守護神であり狼である彼ならばなおさらだ。そのうち婚約解消するのだから騒がれない方がいいという彼の配慮により、婚約は公表されていない。
午前の犬の訓練を終えたあと、少し時間が余ったからと犬たちの自由時間となった。
とたんに走り出すもの、仲間とじゃれ合うもの、地面に横になるものなど、それぞれが楽しそうだ。



