彼と一緒に待っていると、十頭の犬と訓練士が現れた。ほとんどが黒と茶の入り混じったシェパードで、一頭だけ薄茶のラブラドール・レトリーバーがいた。ラブラドールは近年正式な犬種として認められた犬であり、暁津洲帝国では軍用犬として採用している。
「犬……!」
 燈子は身を竦めた。両手で自分を抱きしめ、小さくなって震える。

『お前、犬が苦手なのか?』
「そうです、怖くて……」
『意外に小心だな。俺は平気なくせに』
 軽く笑った颯雅に、燈子はぎゅっと眉を寄せた。

「あなたは特別です。母が犬のあやかしに殺されて、だから苦手なんです」
『……それは悪かった。すまない』
 ばつが悪そうに謝る颯雅に、燈子はうつむく。

『だが、こいつらはあやかし退治に特化した軍用犬、仇をとってくれる俺の部下だ』
「仇を……」
 燈子の胸がどきんと鳴った。自分の手で仇を取りたいと思った、だけどそれができないのだとなんど泣いたことだろう。

「もしかして、犬の言葉がわかるのですか?」
『そうではない。が、犬たちは俺の命令を聞いてくれるからな、人間が一から訓練するより早い』

「狼の神の血を引いてるからでしょうか」
『そうだろうな』
 訓練士と犬たちが彼の前に整列する。

『今日から俺の婚約者が見学するが、お前たちは今まで通り訓練しろ』
 訓練士の返事とともに、犬たちがいっせいに「わん!」と吠える。
 犬たちは主にあやかしに対しての戦闘訓練を行った。