「記者の肉はうまいかなあ。なあ?」
 呼びかけに、ぐるる、と唸り声が応じた。
 闇から次々と犬が現れ、取り囲まれる。

 恐怖が形となって現れたのだと察した。だがもう遅い。逃げ場はない。
 助かるための算段で頭が回転する。酔いなどとっくに消えていた。冷えた肝とばくばく鳴る心臓だけが士郎を支配している。

「どうして人間を襲うんだ? 食べるためか?」
「これは復讐だ。そこらの畜生と同じにするな」
 怒った声に、士郎は恐怖とともに興味をひかれた。

「なぜ復讐を?」
「聞いてどうする、死ぬのに聞いても仕方がないだろう」
 大きな口を開けた直後、士郎は叫んだ。
「待て、俺がいればもっと大きな復讐ができるぞ!」

 病狗が口を閉じた。士郎はほっとして続ける。
「俺はスクープ、お前は復讐、持ちつ持たれつでいこうじゃないか」
「詳しく話してみろ」
 促す病狗に、士郎は、へへ、と笑いを浮かべる。

 急場はしのげた。ここからが勝負だ。
 媚を売るのは慣れている。そうして情報を得て記事を書いてきた。
 ここであやかしの懐に飛び込めば、誰にも書いたことない記事が書けるに違いない。
 士郎は病狗の機嫌をとりつつ、話し始めた。



第三話 終