「なんだ犬か」
 ふん、と鼻を鳴らしてから、ふと思いつく。最近は犬のあやかしが多いというが、これもあやかしではないのか。写真に収めることができたら、そこそこのスクープになりそうだ。
 カメラを構えて犬の跡をつける。ただの犬であってもあやかしだと言って編集長に出そうか。そう思ってカメラをかまえる。

 もし万が一、本当にあやかしだとしても所詮は犬。蹴飛ばしてやれば「きゃん!」と鳴いて逃げるのが相場というものだ。
 暗い中でうまく写るかどうかはわからない。外灯の下に来い、と思ったときにおりよく外灯の下に立った。
 犬が振り返った直後、士郎はシャッターを切った。

 が、その姿は異形。

「ひい!」
 士郎は尻餅をつき、悲鳴をあげた。

 どう見ても体は犬。四肢も体も短い被毛におおわれ、垂れたしっぽもまた毛におおわれている。
 なのに顔は人間。老年にさしかかろうかというふぜいの顔には犬にあるべき毛はない。目と鼻と口が異様に大きく、額と目元、口元には深く皺が寄っていた。
 病狗、と言葉が浮かぶ。病気を媒介する厄介な犬のあやかし。これがその正体ではないだろうか。

「お前、写真を撮ったか」
 あやかしは不機嫌そうにカメラをふみつけた。犬の足であるにも関わらず、簡単にカメラは壊れた。
「写真をどうするんだ」
「俺は記者で……」
 士郎はずりずりと退がるが、せっかく広げた距離を、病狗はたやすく詰めて来る。