「恥ずかしながらお伝えしますと……ここで働くとほかの男が寄って来るんじゃないか、心配だ、と怒っておられます、ああ、恥ずかしい」
 照れたように着物のたもとで顔を隠し、颯雅にだけ見えるようにあかんべーをした。
 颯雅は牙をむいて毛を逆立て立ち上がるが、功之輔に背を叩かれて座り直した。

「帝国の守護神の婚約者を奪おうなんて勇者はいませんよ。ご安心を」
 尚吾郎は愉快そうに笑い、功之輔に向き直る。
「貴重な人材をありがとうございます。いつから働いていただけますか」
 後半は燈子に尋ねていた。

「いつなりと。今日からでも大丈夫です」
「なんと頼もしい。軍人の嫁としてのお覚悟もお決まりなのでしょうな」
「はい」
 即答する燈子に、功之輔と尚吾郎は満足そうに頷く。

『なんとツラの皮の厚い』
 颯雅がけなすが、燈子はつんとすましてやりすごした。なんとでも言えばいい。せっかく手に入れた働き口、手放したくはなかった。



 燈子と颯雅は本部に向かう功之輔を玄関まで送った。
 燈子は明日からの勤務となり、彼女は陸軍の車で送ってもらえることになったので、そのまま迎えを待つ。

『俺は結婚する気はない。婚約者を名乗るな。男の仕事に出しゃばるな!』
「今どき男だの女だの。女性だって仕事を持ってどんどん社会に出てますのに」

『だったらよそで働け!』
「冷たいですね。婚約者なのに」