「いいですね。今でもある程度の意思疎通はできますが、細かいところが伝わらずに困るときがありますから」
「筆をくわえて字を書くのも大変そうだしな」
 頷く功之輔に、燈子の顔はひきつった。そんなふうに意思疎通ができるなら燈子の嘘はバレているのでは。だが、功之輔は指摘してこない。わかっていて黙っているのだろうか。だが、バレているなら通訳を頼んだりはしないだろう。

 尚吾郎はふむと頷き、燈子を見る。
「どうかな、通訳をしてもらえるかな?」
 功之輔に聞かれ、燈子はすぐに首肯した。
「ぜひお願いしたいです!」
 外で働けるなんて夢みたいだ。しかも軍の駐屯所、こんな安定した職場はなかなかないと思う。

『ふざけんな、なんでこんな嘘つきを雇うんだ!』
「彼も嬉しいそうです」
『クソアマが! 首を噛み切ってやろうか!』
「まあ、なんてお上品なお口でしょう。そうおっしゃるならやってみてくださいませ」
 燈子の嫌味に、颯雅は鼻に皺をよせてがるると唸る。
 もちろん、彼がやるはずがないとわかっていて挑発したのだ。

 彼は真世たちのように殴ったり蹴ったりすることはない。噛みつくという脅しだって、父や上司の前でするわけがないのだ。
 育ちのいいお坊ちゃんだからかな、と燈子は思う。したたかに生きる必要がなかったのをうらやましく思う反面、腹が立つ。

「怒っているように見えるが、なんて言ってるんだ?」
『さっさと断れ!』
 怒鳴られて、燈子はむっとした。