功之輔に案内され、燈子は駐屯所の中を歩く。
 すれ違う兵士が功之輔に敬礼する。燈子も会釈をして通り過ぎながら、やはりすごい人なのだな、と戸惑いとともに感心した。
 司令室に到着した功之輔はドアをノックする。

 出迎えたのは男性だ。
 ソファに案内され、燈子は遠慮しながら座った。その隣に颯雅、功之輔と並んで座る。
 向かいに座った男性はこの駐屯所の司令で室松尚吾郎(むろまつ しょうごろう)だと紹介された。
 制服の男性がお茶を持ってきて配膳し、立ち去ると、功之輔は切り出した。

「急な来訪、申しわけない。今日は颯雅の婚約者を連れて来た。大鶴燈子さんだ」
「これはまたかわいらしい。初めまして」
「初めまして。お目にかかれて嬉しく存じます」
『まだ婚約していない』
 不満そうに唸る颯雅を、燈子は無視した。

「ただ婚約者を紹介するためにお連れになったわけではないでしょう?」
 たずねる尚吾郎に、功之輔は頷く。
「この方は颯雅の言葉がわかるのだ」
「本当に!? 特別な霊力をお持ちで?」
「違います。どうしてなのかは私にもわかりません」
 燈子は正直に説明した。

「しかし貴重な存在ですね」
「彼女に通訳をしてもらったらどうかと思ってね」
『聞いてないぞ!』
 がうがうと文句を言う彼の横で、燈子は目を丸くした。