「ご苦労さん」
 功之輔はあいそよく返し、颯雅は不機嫌そうに鼻先をそらした。
「一緒にいらっしゃったお嬢さんはどちらさまで?」
「気にするほどのことではないよ」
 燈子の前に、男が立ち塞がり、カメラを向ける。

「もしかしてご子息の結婚お相手ですか!?」
 直後、功之輔は間に割って入った。
「無断撮影はやめていただきたい」
「あんまりお美しいもので」
 へらへらした言いわけに、燈子は不快に眉を寄せた。

東日(とうにち)スポーツ新報(しんぽう)さん、マナーは守ってください。同じ記者として許せません」
 咎めたのは背の高いメガネの男性。黒髪はきれいになでつけられ、鋭い目でカメラを持った男をにらんでいる。スーツは見るからに高そうだ。
 この人たちは何者かと疑問に思っていると、背の高い男性が燈子に名刺を差し出した。

「私はあかつき新聞の記者で鷹宮廉次(たかみや れんじ)と申します。いわゆる番記者でしてね。軍のみなさまに取材をして新聞記事を書いております」
 燈子は名刺を受け取り、まじまじと見る。記者なんて初めて見た。

「あとから来てぬけがけすんなよ。俺は東日スポーツ新報の記者で浪川士郎(なみかわ しろう)、なにかあればすぐ教えてくださいね」
 にたにたしながら出された名刺を、燈子は仕方なく受け取った。

『ぼーっとするな。行くぞ』
 颯雅がひと吠えする。
 ふたりの記者に軽く頭を下げ、燈子は颯雅と功之輔に続いて門をくぐった。