「みなさまに認めていただけるように頑張ります」
『やめろ、断れ!』
「ありがとうございます」
 颯雅に笑みを向けてから、功之輔に言う。

「綾月様も、がんばれと励ましてくださいました」
『どこまで嘘つきなんだお前は!』
 颯雅の苦情の唸り声を燈子は無視して、功之輔は苦笑する。

「苗字で呼ばれると私も返事をせねばならないな。颯雅のことは名前で呼んでくれないか」
「かしこまりました。これからは颯雅様とお呼びします」
『勝手に決めるな!』
 燈子はすまし顔で食事をいただいた。

 颯雅を見ると、抗議をあきらめた彼は身を乗り出して皿から直接食べていた。当然そうなるよね、と思って苦笑した。昨夜は緊張もあって気にする余裕がなかった。狼の姿の彼が箸を持って食べていたら、きっとかわいいだろうという気がした。
 視線に気が付いた颯雅はふいに食べるのをやめて椅子に座り直す。それから燈子に言った。
『俺は席をはずす。お前のお得意の嘘を頼む』
 席をおりた彼に、功之輔が声をかける。

「食事中だぞ、どうした?」
「おなかいっぱいだそうです」
「そうか……」
 不信そうに首をかしげながらも、功之輔はそれ以上を追求しなかった。
 じろじろ見て気分を悪くさせちゃったかな、と燈子は反省し、大人しく朝食をいただいた。



 身支度を整えたあとは、功之輔、颯雅とともに車に乗り込んだ。
 公爵ともなれば車で通勤をするものなのだろうか。車はまだ珍しく、乗合自動車は普及しつつあるが、個人で所有しているのはかなりの大金持ちだ。