『ふざけるな、嘘ばかりつきやがって!』
「私には怒っているように見えるが、違うのか?」
「ええ、大変歓迎してくださって、恐縮です」
 燈子はにこっと笑顔を見せる。

 嘘なんてつきなれている。麻子に、真世に、喜美に。殴られたり意地悪されたりしないように、嘘をついて凌いできたことはいくらでもある。
『俺は喜んでなどいない!』
 彼は首を振る。
 しまった、そういう意思疎通はできたのか。一瞬慌てた燈子だが、すぐに気を取り直す。
 たとえそうであっても、言葉が理解できるのは自分に有利なはずだ。嘘だとバレないためには、都合の悪いことも言っておくべきか。

「ただ、急すぎなのでは、と言っておられます」
「息子の言葉がわかる人が初めてだったのでな」
『結婚なんて冗談じゃない! 前からしたくないって言ってただろうが!』
「じゃあなんで見合いなんて?」
『親父殿に話が通じないからだ!』
 言われて、ぷっと吹き出してしまった。

『なにがおかしい!』
「なんかおかしかったんですもん」
 ふふっと笑うと、功之輔は穏やかな笑みを浮かべた。

「さっそくに仲が良さそうで良かった」
『良くなんかない!』