食事はろくに与えられていない。が、今日も継母である麻子がごはんを残すようだから、それをいただけば大丈夫。父はぺろりと平らげてしまい、時としておかわりまで要求するから、妻と娘に同調するふりをして、本当はおいしいと思っているらしい。
 台所ではふたりの女中が板の間に座っていて、ちょうど食事を終えたようだった。ひとりは歳がいっていて、もうひとりは燈子のふたつ上で三宅喜美(みやけ きみ)、ここに来て半年ほどだ。

「奥様が朝食を作り直してほしいそうです」
「またあ!?」
 喜美が大声をあげ、年配の女中はため息をこぼした。

「今日もご不興を買ったの? 大鶴家の長女なのに、真世様とは出来が大違い」
「そうですねー」
 燈子は受け流したのだが、それが喜美の気にさわったらしい。

「生意気!」
 喜美が手を振り上げるから、燈子はさっと避けた。
 振り下ろされた手はすかっと空を切り、喜美はさらにいきり立つ。

「あんたのせいで母親が死んだのに。生まれて申しわけないと思わないの!? こんなんじゃ犬死によ!」
 燈子はカッとして女中につかみかかった。母のことだけは頭に血が昇ってしまう。

「ふざけないで! あなたになにがわかるの!」
「やめなさい!」

 年かさの女中の一喝で、燈子ははっと手を離した。直後、喜美から手が飛んできて、ばしん! と頬が張られる。
「父親からも見捨てられて女中以下のくせに」