「好きでこんなかっこうしてるわけじゃないし、待たせるのも申しわけないし、最低限の準備で急いできたのに。帰りたかったらさっさと帰れば!」
『まさか、俺の言葉がわかるのか!?』
 吠え声とともに届く言葉に、燈子は首を傾げた。

「どういうこと?」
 言ってから、悟った。
「みんな、聞こえてないの? 泥臭いとかぶざまとか、失礼なことばっかり言われたんだけど」
『ばらすんじゃない!』
 わうわうと慌てた声に、燈子は呆然とした。

「あの、これはいったい……」
 わたわたと狼狽する正雄とは反対に、功之輔の顔は考え込むように険しい。
「こんなことは初めてだ。家族や霊力のある者ですら颯雅の言葉がわからないのに」

『お前、なにものだ? あやかしか?』
「失礼ね! 違うわよ!」
『だったらなんだ』
「知らないわよ! なによちょっと神の血を引いてるからって偉そうに! 私だって神の血をひいてれば、あやかしくらいばんばん倒してやるわよ!」
 あやかしは仇だ。自分で退治したいと思ったが、その力がないために諦めていたが、かなうことならこの手で仇を討ちたい。

「なんと頼もしい。豪胆なお嬢さんだ!」
 ははは、と功之輔に笑われ、燈子は眉を寄せた。これは褒められたのだろうか。

「息子の失言は謝罪する。大鶴殿、ぜひ縁談を進めていただきたい」
「へ? あ……」
「まあ! ありがとうございます!」
 あっけにとられた正雄に代わり、麻子が笑顔で答える。