真世は見事な振袖を着て髪も拭いてあった。匂い袋を忍ばせているのか、いい匂いが漂っている。
下座につくと、正座して両手を前につき、頭を下げた。手ぬぐいで拭いてきた髪がだらりと垂れて、思い出したように雫がしたたった。着物の肩口も濡れそぼり、べっとりと冷たい。
「お待たせいたしました。長女の燈子です。燈子、こちらは綾月功之輔様と、ご子息の颯雅殿だ」
「初めまして。よろしくお願い致します」
改めて頭を下げたのち、彼らを見る。
「すばらしい淑女と聞いていたが、元気そうなお嬢さんだ」
張り付いた笑顔の功之輔に、良い印象を持たれてはいないな、と燈子は思う。
「いやはや、本当に不出来な娘で……なんと申し上げれば良いか」
俺は不幸だ、と言いたげな正雄はしきりに頭をかき、麻子に肘でつつかれている。
「今日は緊張しているようでして」
ほほほ、と麻子はたもとで口を覆って上品に笑う。
「姉の燈子さんとの縁談と聞いていましたが、それでよろしいでしょうか?」
功之輔の視線に、燈子は身をすくませた。が、すぐに背筋をぴんと伸ばして彼を見返す。 女中よりもひどい姿だから確認したのだろうが、自分は悪いことなどひとつもしていない。萎縮する必要なんてない。
「すみません、このようないでたちで。親の言うことを聞かず、まったく」
謝る正雄に燈子はむっとした。こんな着物しかないのは彼が麻子たちを放置しているからだ。
『なんとぶざまな姉妹だ』
唸り声と一緒に聞こえた言葉に、燈子はまた狼——颯雅を見た。
しれっとそっぽを向いた彼の言葉は、誰も気にしていないようだ。
『ひとりはけばけばしく、匂い袋が臭い。もうひとりは襤褸姿で泥臭い。馬鹿にするのもたいがいにしろ。さっさと帰りたいものだ』
「いくらなんでも失礼よ!」
敬語も忘れた言葉にその場の全員が燈子を見た。特に狼の彼がぎょっとしている。
下座につくと、正座して両手を前につき、頭を下げた。手ぬぐいで拭いてきた髪がだらりと垂れて、思い出したように雫がしたたった。着物の肩口も濡れそぼり、べっとりと冷たい。
「お待たせいたしました。長女の燈子です。燈子、こちらは綾月功之輔様と、ご子息の颯雅殿だ」
「初めまして。よろしくお願い致します」
改めて頭を下げたのち、彼らを見る。
「すばらしい淑女と聞いていたが、元気そうなお嬢さんだ」
張り付いた笑顔の功之輔に、良い印象を持たれてはいないな、と燈子は思う。
「いやはや、本当に不出来な娘で……なんと申し上げれば良いか」
俺は不幸だ、と言いたげな正雄はしきりに頭をかき、麻子に肘でつつかれている。
「今日は緊張しているようでして」
ほほほ、と麻子はたもとで口を覆って上品に笑う。
「姉の燈子さんとの縁談と聞いていましたが、それでよろしいでしょうか?」
功之輔の視線に、燈子は身をすくませた。が、すぐに背筋をぴんと伸ばして彼を見返す。 女中よりもひどい姿だから確認したのだろうが、自分は悪いことなどひとつもしていない。萎縮する必要なんてない。
「すみません、このようないでたちで。親の言うことを聞かず、まったく」
謝る正雄に燈子はむっとした。こんな着物しかないのは彼が麻子たちを放置しているからだ。
『なんとぶざまな姉妹だ』
唸り声と一緒に聞こえた言葉に、燈子はまた狼——颯雅を見た。
しれっとそっぽを向いた彼の言葉は、誰も気にしていないようだ。
『ひとりはけばけばしく、匂い袋が臭い。もうひとりは襤褸姿で泥臭い。馬鹿にするのもたいがいにしろ。さっさと帰りたいものだ』
「いくらなんでも失礼よ!」
敬語も忘れた言葉にその場の全員が燈子を見た。特に狼の彼がぎょっとしている。



