婚約者は狼神!? 帝国の守護神の通訳として雇われた私、なぜか溺愛されてます!

「ケガしたくなかったら動かないことよ」
 燈子は抵抗をあきらめ、従った。髪はまた伸びるのだから。ケガをするほうが損だから。
 悔しさに歯をかみしめ、耐える。
 喜美がはさみを動かそうとしたとき。

『やめろ!』
 吠え声とともに聞こえた男性の声に、そちらを見た燈子は声をなくした。
 佇んでいるのは、白銀の狼。春の日差しに黄金の瞳がきらりときらめく。

 凛々しく、雄々しく、神々しい。貴品と気高さがあふれていて、犬嫌いの燈子でも嫌悪を抱くいとまがない。
 体高は前に立つ正雄の腰ほど、後ろ足で立てば容易に彼を超えるだろう。
 体毛はふわふわ、立派な尻尾も同様だ。鼻は黒く、爪は鋭い。

 しばらく見つめて、隣に立派な洋装の男性がいることに気がついた。
 きっとこの狼が見合い相手で、男性がつきそいなのだろう。とんだ醜態をさらしたものだ。

「なんで犬なんか!」
「お嬢様!」
 駆けつけようとした喜美は縁側に伸びた燈子の帯を踏み、ずるっと転ぶ。その拍子にはさみが真世の着物を裂いた。

「きゃあ!」
 再度の悲鳴を上げ、真世が泣きそうな顔で座り込む。
「どうしてこんな目に……」
「燈子様のせいです!」
 責任転嫁する喜美に、燈子は白い目を向けた。彼女らには自業自得とは思えないらしい。