婚約者は狼神!? 帝国の守護神の通訳として雇われた私、なぜか溺愛されてます!

 燈子は思わず声をあげて笑った。
「あははは! 人を呪わば穴ふたつ!」
 だが、それが悪かった。真世の目は忿怒に燃え、燈子をにらむ。

「見てなさいよ、その木は絶対に切るから。お母様ぁ!」
 歩き出した真世を追って、燈子は縁側に上がる。ゆるかった帯がほどけてずるずると引きずられたが、かまう余裕はない。
「待ってください、やめて、あれだけは!」
「だったら土下座しなさいよ」
 燈子はぐっと言葉につまり、だが、すぐに膝をついた。

 土下座はなんどもさせられている。今さらどうってことない。
 はさみを脇に置いて手を付き、頭を下げた。ぬれそぼった髪からぼたぼたと雫が落ちて、たまりができる。

「どうか、切らないでください」
「まだ頭が高いわね」
 ぐい、と頭を押された。ごちん! と床板に額がぶつかって目から星が飛んだ。

「謝罪もうまくできないなんて。やはりお母様に言わなくては」
「その前に」
 真世は燈子の長い髪をつかんでぐっと引っ張る。

「痛い!」
「ぶざまな髪を整えてあげる。最近は断髪もはやっていることだしねえ?」
 言いながら、真世は喜美にうなずいてみせる。喜美ははさみを手に取ってにやにやと燈子に近づいてきた。

「やめて!」
 燈子はふりほどこうとしたが、頭皮が強く引っ張られて痛みが増しただけだった。