君のくちづけは奇跡のかけら ~狼神は嘘つき淑女のキスで覚醒する~

 私の馬鹿! どうして弱みをさらすの!
 今まで黙って守って来たのに、こんなことでバレるなんて。後悔しても遅い。

「お母様に言いつけようかしら。すぐにあの木を切るわねえ」
「やめてください。それだけは……」
「だったら花を捨てて、池に飛び込んで」
「どうして……」
「そのほうが犬畜生と結婚するあんたにお似合いだからよ」
 燈子は髪に挿した枝を手にすると、ぎゅっと握り込んだ。
 池のふちに立って水面を覗き込むと、悔しそうに顔を歪めた自分がいた。

「さっさと飛び込みなさいよ」
 そう言われても、ためらいが勝つ。いつもの襤褸(ぼろ)ならすぐ飛び込んだ。それで済むなら楽だからだ。だけど今日は古着とはいえ晴れ着であり、運命を決する見合いが控えている。成功させてこの家から出るには、ここで池にとびこんでどろどろにするわけにはいかない。

「喜美、手伝ってあげて」
「はい」
 喜美は足袋のまま庭に降りると、燈子のそばに寄った。
「なにを……」
 するの、と言い切る前にどんと突き飛ばされ、池にばしゃんと落ちて大きなしぶきが飛んだ。

「きゃああ!」
「ひっ!」
「いやあ!」
 自分の悲鳴に、なぜか喜美と真世の悲鳴が重なった。

 鯉が身をひるがえして逃げていき、燈子はすぐに立ち上がった。
 四月の下旬、大気が(ぬく)まる時期とはいえ、水浴びには早過ぎる。
 がちがちと震えながら池から上がると、しぶきを浴びた喜美と真世がいた。