「まずい!」
罵声とともに御膳をひっくり返され、御御御付がばしゃっと着物にかかった。落ちた茶碗や皿は音を立てて割れ、畳に茶色の汁がしみていく。
正座をしていた大鶴燈子は両手をついて深々と頭を下げた。
「申しわけございません、お嬢様」
実の姉妹なのに燈子は妹の真世を「お嬢様」と呼べと命じられ、敬語を使えと言われている。
真世は、ふん、と鼻を鳴らして燈子をにらみつけた。
「十七歳にもなってごはんもまともに作れないの? お母様もお父様も無理して食べることはないわ!」
「女中に作り直させましょう」
継母の麻子が箸を置いた。気の強そうな吊り目が、真世を見るときだけは優しい。
「それがいいわ。お父様も!」
「私は我慢して食べるよ」
困り顔で父の正雄が言う。気弱な彼は眼鏡のせいでなおさらに気弱に見えた。
「お父様ったらお優しい」
真世はおおげさに着物のたもとで口元を隠し、汚物を見る目を燈子に向けた。
「さっさと片付けなさいよ、愚図」
「はい」
燈子はお膳の上に割れた茶碗などを載せ、懐から出した手ぬぐいで畳を拭いた。礼をして退室し、ふすまを閉めた直後、部屋に向かってあかんべー! と舌を出す。
「あなたがこうするとわかってて御御御付もお茶もぬるめにしておいたし、茶碗は安物。買い直すのは私じゃないし、平気だもんねーだ!」
小声で言ってから、燈子は台所へ向かった。
罵声とともに御膳をひっくり返され、御御御付がばしゃっと着物にかかった。落ちた茶碗や皿は音を立てて割れ、畳に茶色の汁がしみていく。
正座をしていた大鶴燈子は両手をついて深々と頭を下げた。
「申しわけございません、お嬢様」
実の姉妹なのに燈子は妹の真世を「お嬢様」と呼べと命じられ、敬語を使えと言われている。
真世は、ふん、と鼻を鳴らして燈子をにらみつけた。
「十七歳にもなってごはんもまともに作れないの? お母様もお父様も無理して食べることはないわ!」
「女中に作り直させましょう」
継母の麻子が箸を置いた。気の強そうな吊り目が、真世を見るときだけは優しい。
「それがいいわ。お父様も!」
「私は我慢して食べるよ」
困り顔で父の正雄が言う。気弱な彼は眼鏡のせいでなおさらに気弱に見えた。
「お父様ったらお優しい」
真世はおおげさに着物のたもとで口元を隠し、汚物を見る目を燈子に向けた。
「さっさと片付けなさいよ、愚図」
「はい」
燈子はお膳の上に割れた茶碗などを載せ、懐から出した手ぬぐいで畳を拭いた。礼をして退室し、ふすまを閉めた直後、部屋に向かってあかんべー! と舌を出す。
「あなたがこうするとわかってて御御御付もお茶もぬるめにしておいたし、茶碗は安物。買い直すのは私じゃないし、平気だもんねーだ!」
小声で言ってから、燈子は台所へ向かった。



