プロローグ
【?】
うーん……ここはどこ?
私は知らない所で目を覚ました。今私がいるのは、おそらくベッドの上。私の目の前には机。周りを見渡すと、本が詰まった本棚、クローゼット、椅子、姿見…どこかの部屋のはずだけど、見覚えはない。一体どうなってるのよ……
「ふにゃ…」
!?
ふと、私が漏らした言葉にびっくりしてしまった。何でふにゃ!?だけど、次の瞬間、更に驚いた。手をふと見ると、それは手じゃなくて肉球だった。私の姿をみると、黒い毛むくじゃらでしっぽもあった。ベッドから降りると、私は四本足で移動していた。決定的だったのは、姿見で私の姿を見た時。
「フギャァ!」
完全に黒猫だった。そういえば、やけに視線が低いし、周りが少しぼやけて見えるし……どういうこと?私、黒猫に生まれ変わった?前世の記憶を持ったまま?
見上げると、窓があったので、飛んでみる。すると、思ったより簡単に窓際に行けた。さすが身軽な猫。窓から外を見ると、やはり私の知らない所だった。庭がある所を見ると多分ここは一軒家。
窓から降りてもう一度私の姿を鏡で確認する。生まれ変わり?でも、見る感じこの猫は大人になってるし、何より飼い猫だろうし……
状況がいまいち掴めず、ただぼんやりしていると、ドアが開いた音がした。そちらを見ると、私よりもでっかい、女の子が入ってきた。
「あっ、アイー。もう起きたんだね。おはよ。」
女の子は私に話しかけてきた。多分私?の飼い主だろう。
「ご飯もう用意してるから、リビングに行こっか。」
「ふにゃ……」
私はその女の子に抱き抱えられて、その部屋を出た。私はその女の子をよく観察する。眼鏡をかけていて、黒髪のセミロングで、顔つきが良い。多分、高校生ぐらいだろうか。
リビングらしき所に着き、私は降ろされた。やはり見た事ない所だったので、私は思わず見渡し、リビングを歩き回る。
「珍しいね、ご飯の前に運動だなんて。」
その女の子がそう言った。その女の子は朝ごはんを食べていた。こんなにものんびりしているという事は今日は休日だろうか?
とりあえずお腹が空いたので、ご飯を食べる……あれ、ご飯どこ?ご飯を探してしばらくうろうろすると、やっとご飯を見つけた。これが俗に言う‘’カリカリ”?私はおそるおそる食べてみる。よく分からなかった。が、とりあえず食べる。
「良かったー、今日は気に入ってくれたー。」
その女の子はほっとするようにそう言った。この猫、好き嫌いが多いのか?私はそういうタイプではないはずだけど……
ご飯を一粒残さず食べ終わった。その頃、女の子は朝ごはんを既に食べ終えていて、お皿を洗っていた。へー、偉いわね。
「ニャア……」
おっと、声に出してしまった。いや、出しても変わらないか……
「いやー、それほどでもー。」
女の子は何故か照れた。私の言った事が分かった?……まあ、気のせいか。
女の子はお皿をしまい終わると、棚から何かを取り出した。
「アイー、遊ぼう。」
女の子が取り出したのは、いわゆる猫じゃらしだった。女の子は猫じゃらしをぶんぶん揺らし出す。何が楽しいんだか……と思うが、何故か体はうずうずとして、猫じゃらしに飛びついてしまった。別に楽しい訳じゃないのに、猫じゃらしを捕らえようと必死になる。これが猫の本能か……
しばらくして猫じゃらしの遊びは終了し、私と女の子は部屋に戻る事にした。この猫の体って、便利で不便ね。身軽に動けるけど、視力は低いし、動いてない物ってなんだかぼやけて見えるし……そういえば、今更だけど、この猫、アイって言うのね。
部屋に戻り、女の子は椅子に座った。私はどうすればいいか分からず、ただ立ち尽くす。
「珍しいねー、いつもだったら速攻で寝てるのに。」
そんなに寝ないわよー。
「にゃぁ」
「嘘だー、猫じゃらしで遊んだ後はぐーすかぴー寝てるくせにー。」
……?やっぱり私の言葉分かってる?たまたまにしては何か出来てるような……
「にゃぁ」
あなた私の言葉分かるの?
「……へ?今更何言ってんの?」
【?】
今日はガッツリ平日だけど、学校に行く日ではないから朝はのんびりしている。
目を覚ますと横には私の愛猫であるアイが寝ている。これがいつもの日常だ。寝てるアイを起こさないようにそっとベッドから出て、一階に降りる。すると、丁度お兄ちゃんが家を出る所だった。
「おはよう、お兄ちゃん。」
「おっ、おはよう。アイはまだおねんねか?」
「うん。行ってらっしゃい、お兄ちゃん。」
「おう。行ってきます。」
お兄ちゃんは大学生だ。今日も大学に行くらしい。
お兄ちゃんを見送った後、お母さんが作ってくれた朝ごはんを電子レンジで温める。その間にアイのご飯を用意する。今日は食べてくれるといいな……
部屋に戻ると、アイが鏡の前に立っていた。
「あっ、アイー。もう起きたんだね。おはよ。」
そう言うと、アイは私を見つめてくる。吸い込まれそうな黄色い瞳、今日も綺麗だなぁ……
「ご飯もう用意してるから、リビングに行こっか。」
「ふにゃ……」
私はアイを抱き抱えてリビングに降りる。アイを降ろすと、アイは珍しく部屋をうろうろしている。
「珍しいね、ご飯の前に運動だなんて。」
アイは特に何も答えなかった。しばらくして、アイはご飯を食べた。どうやら、今日のカリカリはお気に召したらしい。
「良かったー、今日は気に入ってくれたー。」
私はそう言った。そして、アイは完食したらしい。私は食べ終えた朝ごはんのお皿をシンクに持って行って、洗い出した。すると、アイが私の横に来た。
(偉いわね。)
「いやー、それほどでもー。」
アイに珍しく褒められたので、照れてしまった。何か今日のアイはいつもと違うなー。
私はお皿をしまい終わると、棚から猫じゃらしを取り出した。
「アイー、遊ぼう。」
私は猫じゃらしをぶんぶん揺らし出す。アイはいつも通り猫じゃらしにじゃれついてくる。
しばらくして猫じゃらしの遊びは終了し、私とアイは部屋に戻った。私は椅子に座り、アイを見つめていた。アイは特に何かをする訳でもなく、ただ立っていた。
「珍しいねー、いつもだったら速攻で寝てるのに。」
(そんなに寝ないわよー。)
「嘘だー、猫じゃらしで遊んだ後はぐーすかぴー寝てるくせにー。」
いつもは私がからかわれているから、なんだか仕返しをしている気分だ。
(あなた私の言葉分かるの?)
その言葉に私は凍りついた。
「……へ?今更何言ってんの?」
(ん?)
「いやいや……」
???どういう事?状況が読めない。
と、その時。不思議な事が起こった。
(こらー!あんた、他の猫に入り込んで何してんのよ!?)
(あんた誰よ!?)
アイがアイと喧嘩を始めた……摩訶不思議な状態になっている。
(私がこの体の持ち主よ!あんた、出ていきなさい!)
(どうやって出るのよ!?)
(知らないわよ!)
「わーっ!とりあえず喧嘩やめてー!」
と、私はアイを抱きかかえるが……なにせ一匹の猫の中で二人?が喧嘩してるので、なかなか止められない。
「アイー!」
なんだかんだ数分後。喧嘩は一旦止まった。
「……つまり、アイの中にふ、二人?二匹?はいってるって事?」
(そういう事になるわね。)
「……今、喋ってるのどっち?」
(あなたが知ってるアイよ。)
「うーん……二人、いや二匹とも同じ声だからさー。分かんないよー。」
(うん、あなたは動物の言葉が分かるって事でいいのよね?)
「えっと、そちらが、アイじゃない方……とりあえずお名前教えてくれます?」
(名前?そーね、名前……え、なんだっけ?)
【?】
私はよく状況が読めなかった。この女の子、やっぱり私の言葉が分かると思った瞬間、私の中にいる、なんか別の声が聞こえて、そこから喧嘩を始めてしまった。その女の子が必死に止めてくれたおかげで、喧嘩はなんとか収まった。
で、今は正座している女の子と対面している状況だ。ちょっと頭が追いついてきた。
「……つまり、アイの中にふ、二人?二匹?はいってるって事?」
(そういう事になるわね。)
「……今、喋ってるのどっち?」
(あなたが知ってるアイよ。)
なんかまどろこっしいわね。一つの体に二つの人格?がいるって事、だよな……
「うーん……二人、いや二匹とも同じ声だからさー。分かんないよー。」
(うん、あなたは動物の言葉が分かるって事でいいのよね?)
「えっと、そちらが、アイじゃない方……」
アイじゃない方ってなんか失礼ね。まあ、実際そうなんだけど。
「とりあえずお名前教えてくれます?」
(名前?そーね、名前……)
私は名乗ろうとするが……思い出せない。
(え、なんだっけ?)
あれ……私、誰だっけ?んー?
「じ、じゃあ、どこに住んでるとか……」
(分からないわ)
「年齢は?」
(さあ?)
(あなた、思い出す気ある?)
(思い出そうとしてるけど、思い出せないのよ!)
(その言い草、何よ!?)
「どうどうどう!」
また喧嘩になりかけたが、女の子が止めてくれた。
「その、アイじゃない方は記憶喪失って事ですか?」
(多分そうなるわね。)
記憶喪失……まさか自分がなるとは思っていなかった。
「つまり、記憶喪失の状態でアイの体に憑依した、という事ですか?」
憑依……そうか、今の状況を憑依と呼ぶのか。
「で、アイの体からは離れられないんですか?」
(うん。)
なんとか出ようとするも、接着剤で引っ付いたように離れられない。
そもそも、私は死んでるという事か?多分、私は幽霊という事なんだろうな……
「もし……仮にですけど、記憶が戻ったらアイから離れてくれますか?」
(うーん……)
「だったら、私が手伝います!」
(ちょっと、何言ってるの!?記憶戻るまでこのまま!?)
「アイー。でもー、離れられないんでしょぉ?」
(まあ、それは……)
「こういうのって、その人の未練?とやらを消せば、離れてくれるものじゃない?」
(うーん、それは確かに)
「それに、何より可哀想だよ。仮に今離れたとしても、何もかも忘れたまま、天国?に行っちゃうんだよ?そんなの辛いよ。」
天国って、もう死んでる事確定なの?ま、生きてる実感もないしなぁ……
(まあ、分かったわよ。変な事はしないでね?)
(分かってるわよ。)
「という訳で決まり!これからよろしくお願いします。えっと……アイじゃない方は、長いし、失礼だし……なんか仮の名前付けないとか。」
(必要?)
「だってー、一つの体の中に二つの人格がいるんだよ?呼び分けないと厳しいよー。」
それは確かに。私は名前すら分からないんだけど……
「うーん……じゃあ、月の反対の太陽で、サンはどう?」
(?なんで月?)
「ああ、アイってね、トルコ語で月って意味なの。満月の下で出会ったから、ね。」
へー。トルコ語……また随分マニアック?な所から名付けたわね。満月の下……この子、ムカつく性格してるけど、元野良猫だったのかしら?
「という訳でよろしくお願いします。」
(よろしく。敬語じゃなくてタメでいいわよ。)
【?】
(で、あなた名前は?)
「ああ……朝日奈光希。高校一年生だよ。これからよろしくね、サン。」
(ええ、お世話になるわ。よろしく、光希。)
私とアイ……いや、サン?は握手をした。
自分から言い出しておいてなんだけど……なんだか新しい、ヘンテコな日常が始まりそうだ。
【?】
うーん……ここはどこ?
私は知らない所で目を覚ました。今私がいるのは、おそらくベッドの上。私の目の前には机。周りを見渡すと、本が詰まった本棚、クローゼット、椅子、姿見…どこかの部屋のはずだけど、見覚えはない。一体どうなってるのよ……
「ふにゃ…」
!?
ふと、私が漏らした言葉にびっくりしてしまった。何でふにゃ!?だけど、次の瞬間、更に驚いた。手をふと見ると、それは手じゃなくて肉球だった。私の姿をみると、黒い毛むくじゃらでしっぽもあった。ベッドから降りると、私は四本足で移動していた。決定的だったのは、姿見で私の姿を見た時。
「フギャァ!」
完全に黒猫だった。そういえば、やけに視線が低いし、周りが少しぼやけて見えるし……どういうこと?私、黒猫に生まれ変わった?前世の記憶を持ったまま?
見上げると、窓があったので、飛んでみる。すると、思ったより簡単に窓際に行けた。さすが身軽な猫。窓から外を見ると、やはり私の知らない所だった。庭がある所を見ると多分ここは一軒家。
窓から降りてもう一度私の姿を鏡で確認する。生まれ変わり?でも、見る感じこの猫は大人になってるし、何より飼い猫だろうし……
状況がいまいち掴めず、ただぼんやりしていると、ドアが開いた音がした。そちらを見ると、私よりもでっかい、女の子が入ってきた。
「あっ、アイー。もう起きたんだね。おはよ。」
女の子は私に話しかけてきた。多分私?の飼い主だろう。
「ご飯もう用意してるから、リビングに行こっか。」
「ふにゃ……」
私はその女の子に抱き抱えられて、その部屋を出た。私はその女の子をよく観察する。眼鏡をかけていて、黒髪のセミロングで、顔つきが良い。多分、高校生ぐらいだろうか。
リビングらしき所に着き、私は降ろされた。やはり見た事ない所だったので、私は思わず見渡し、リビングを歩き回る。
「珍しいね、ご飯の前に運動だなんて。」
その女の子がそう言った。その女の子は朝ごはんを食べていた。こんなにものんびりしているという事は今日は休日だろうか?
とりあえずお腹が空いたので、ご飯を食べる……あれ、ご飯どこ?ご飯を探してしばらくうろうろすると、やっとご飯を見つけた。これが俗に言う‘’カリカリ”?私はおそるおそる食べてみる。よく分からなかった。が、とりあえず食べる。
「良かったー、今日は気に入ってくれたー。」
その女の子はほっとするようにそう言った。この猫、好き嫌いが多いのか?私はそういうタイプではないはずだけど……
ご飯を一粒残さず食べ終わった。その頃、女の子は朝ごはんを既に食べ終えていて、お皿を洗っていた。へー、偉いわね。
「ニャア……」
おっと、声に出してしまった。いや、出しても変わらないか……
「いやー、それほどでもー。」
女の子は何故か照れた。私の言った事が分かった?……まあ、気のせいか。
女の子はお皿をしまい終わると、棚から何かを取り出した。
「アイー、遊ぼう。」
女の子が取り出したのは、いわゆる猫じゃらしだった。女の子は猫じゃらしをぶんぶん揺らし出す。何が楽しいんだか……と思うが、何故か体はうずうずとして、猫じゃらしに飛びついてしまった。別に楽しい訳じゃないのに、猫じゃらしを捕らえようと必死になる。これが猫の本能か……
しばらくして猫じゃらしの遊びは終了し、私と女の子は部屋に戻る事にした。この猫の体って、便利で不便ね。身軽に動けるけど、視力は低いし、動いてない物ってなんだかぼやけて見えるし……そういえば、今更だけど、この猫、アイって言うのね。
部屋に戻り、女の子は椅子に座った。私はどうすればいいか分からず、ただ立ち尽くす。
「珍しいねー、いつもだったら速攻で寝てるのに。」
そんなに寝ないわよー。
「にゃぁ」
「嘘だー、猫じゃらしで遊んだ後はぐーすかぴー寝てるくせにー。」
……?やっぱり私の言葉分かってる?たまたまにしては何か出来てるような……
「にゃぁ」
あなた私の言葉分かるの?
「……へ?今更何言ってんの?」
【?】
今日はガッツリ平日だけど、学校に行く日ではないから朝はのんびりしている。
目を覚ますと横には私の愛猫であるアイが寝ている。これがいつもの日常だ。寝てるアイを起こさないようにそっとベッドから出て、一階に降りる。すると、丁度お兄ちゃんが家を出る所だった。
「おはよう、お兄ちゃん。」
「おっ、おはよう。アイはまだおねんねか?」
「うん。行ってらっしゃい、お兄ちゃん。」
「おう。行ってきます。」
お兄ちゃんは大学生だ。今日も大学に行くらしい。
お兄ちゃんを見送った後、お母さんが作ってくれた朝ごはんを電子レンジで温める。その間にアイのご飯を用意する。今日は食べてくれるといいな……
部屋に戻ると、アイが鏡の前に立っていた。
「あっ、アイー。もう起きたんだね。おはよ。」
そう言うと、アイは私を見つめてくる。吸い込まれそうな黄色い瞳、今日も綺麗だなぁ……
「ご飯もう用意してるから、リビングに行こっか。」
「ふにゃ……」
私はアイを抱き抱えてリビングに降りる。アイを降ろすと、アイは珍しく部屋をうろうろしている。
「珍しいね、ご飯の前に運動だなんて。」
アイは特に何も答えなかった。しばらくして、アイはご飯を食べた。どうやら、今日のカリカリはお気に召したらしい。
「良かったー、今日は気に入ってくれたー。」
私はそう言った。そして、アイは完食したらしい。私は食べ終えた朝ごはんのお皿をシンクに持って行って、洗い出した。すると、アイが私の横に来た。
(偉いわね。)
「いやー、それほどでもー。」
アイに珍しく褒められたので、照れてしまった。何か今日のアイはいつもと違うなー。
私はお皿をしまい終わると、棚から猫じゃらしを取り出した。
「アイー、遊ぼう。」
私は猫じゃらしをぶんぶん揺らし出す。アイはいつも通り猫じゃらしにじゃれついてくる。
しばらくして猫じゃらしの遊びは終了し、私とアイは部屋に戻った。私は椅子に座り、アイを見つめていた。アイは特に何かをする訳でもなく、ただ立っていた。
「珍しいねー、いつもだったら速攻で寝てるのに。」
(そんなに寝ないわよー。)
「嘘だー、猫じゃらしで遊んだ後はぐーすかぴー寝てるくせにー。」
いつもは私がからかわれているから、なんだか仕返しをしている気分だ。
(あなた私の言葉分かるの?)
その言葉に私は凍りついた。
「……へ?今更何言ってんの?」
(ん?)
「いやいや……」
???どういう事?状況が読めない。
と、その時。不思議な事が起こった。
(こらー!あんた、他の猫に入り込んで何してんのよ!?)
(あんた誰よ!?)
アイがアイと喧嘩を始めた……摩訶不思議な状態になっている。
(私がこの体の持ち主よ!あんた、出ていきなさい!)
(どうやって出るのよ!?)
(知らないわよ!)
「わーっ!とりあえず喧嘩やめてー!」
と、私はアイを抱きかかえるが……なにせ一匹の猫の中で二人?が喧嘩してるので、なかなか止められない。
「アイー!」
なんだかんだ数分後。喧嘩は一旦止まった。
「……つまり、アイの中にふ、二人?二匹?はいってるって事?」
(そういう事になるわね。)
「……今、喋ってるのどっち?」
(あなたが知ってるアイよ。)
「うーん……二人、いや二匹とも同じ声だからさー。分かんないよー。」
(うん、あなたは動物の言葉が分かるって事でいいのよね?)
「えっと、そちらが、アイじゃない方……とりあえずお名前教えてくれます?」
(名前?そーね、名前……え、なんだっけ?)
【?】
私はよく状況が読めなかった。この女の子、やっぱり私の言葉が分かると思った瞬間、私の中にいる、なんか別の声が聞こえて、そこから喧嘩を始めてしまった。その女の子が必死に止めてくれたおかげで、喧嘩はなんとか収まった。
で、今は正座している女の子と対面している状況だ。ちょっと頭が追いついてきた。
「……つまり、アイの中にふ、二人?二匹?はいってるって事?」
(そういう事になるわね。)
「……今、喋ってるのどっち?」
(あなたが知ってるアイよ。)
なんかまどろこっしいわね。一つの体に二つの人格?がいるって事、だよな……
「うーん……二人、いや二匹とも同じ声だからさー。分かんないよー。」
(うん、あなたは動物の言葉が分かるって事でいいのよね?)
「えっと、そちらが、アイじゃない方……」
アイじゃない方ってなんか失礼ね。まあ、実際そうなんだけど。
「とりあえずお名前教えてくれます?」
(名前?そーね、名前……)
私は名乗ろうとするが……思い出せない。
(え、なんだっけ?)
あれ……私、誰だっけ?んー?
「じ、じゃあ、どこに住んでるとか……」
(分からないわ)
「年齢は?」
(さあ?)
(あなた、思い出す気ある?)
(思い出そうとしてるけど、思い出せないのよ!)
(その言い草、何よ!?)
「どうどうどう!」
また喧嘩になりかけたが、女の子が止めてくれた。
「その、アイじゃない方は記憶喪失って事ですか?」
(多分そうなるわね。)
記憶喪失……まさか自分がなるとは思っていなかった。
「つまり、記憶喪失の状態でアイの体に憑依した、という事ですか?」
憑依……そうか、今の状況を憑依と呼ぶのか。
「で、アイの体からは離れられないんですか?」
(うん。)
なんとか出ようとするも、接着剤で引っ付いたように離れられない。
そもそも、私は死んでるという事か?多分、私は幽霊という事なんだろうな……
「もし……仮にですけど、記憶が戻ったらアイから離れてくれますか?」
(うーん……)
「だったら、私が手伝います!」
(ちょっと、何言ってるの!?記憶戻るまでこのまま!?)
「アイー。でもー、離れられないんでしょぉ?」
(まあ、それは……)
「こういうのって、その人の未練?とやらを消せば、離れてくれるものじゃない?」
(うーん、それは確かに)
「それに、何より可哀想だよ。仮に今離れたとしても、何もかも忘れたまま、天国?に行っちゃうんだよ?そんなの辛いよ。」
天国って、もう死んでる事確定なの?ま、生きてる実感もないしなぁ……
(まあ、分かったわよ。変な事はしないでね?)
(分かってるわよ。)
「という訳で決まり!これからよろしくお願いします。えっと……アイじゃない方は、長いし、失礼だし……なんか仮の名前付けないとか。」
(必要?)
「だってー、一つの体の中に二つの人格がいるんだよ?呼び分けないと厳しいよー。」
それは確かに。私は名前すら分からないんだけど……
「うーん……じゃあ、月の反対の太陽で、サンはどう?」
(?なんで月?)
「ああ、アイってね、トルコ語で月って意味なの。満月の下で出会ったから、ね。」
へー。トルコ語……また随分マニアック?な所から名付けたわね。満月の下……この子、ムカつく性格してるけど、元野良猫だったのかしら?
「という訳でよろしくお願いします。」
(よろしく。敬語じゃなくてタメでいいわよ。)
【?】
(で、あなた名前は?)
「ああ……朝日奈光希。高校一年生だよ。これからよろしくね、サン。」
(ええ、お世話になるわ。よろしく、光希。)
私とアイ……いや、サン?は握手をした。
自分から言い出しておいてなんだけど……なんだか新しい、ヘンテコな日常が始まりそうだ。

