放課後の空気は、春特有の柔らかい黄金色で満たされていた。
桜の花びらが風に舞い、歩道にうっすらと桃色の絨毯を敷いていく。
そんな道を、美羽と椿はふたり並んで歩いていた。
けれど、隣を歩く椿はどこか遠くを見るような目をしていた。
(椿くん……やっぱり秋人くんのこと、気にしてるんだ……)
莉子から聞いた話が脳裏によぎる。
あれから秋人は白百合を抜け、人が変わったように素行が良くなり、
春休みにアメリカへ留学したという。
「いいよねぇ、頭の良い双子って!」
莉子は悔しそうにそう言いながらも、
「でもね、お兄ちゃん、今は私にだけ優しいの。」とどこか嬉しそうに話していた。
美羽は椿の横顔を見つめる。
(少しでも気持ちが軽くなればいいのに……)
そんな思いで、とっさに声を出した。
「ね、ねぇ椿くん!……アイス食べない?」
椿は瞬きし、ほんの少し驚いた顔をした。
「あ?……あぁ」
その気の抜けた返事に、美羽はふっと笑い、
椿の手を取ってコンビニの方へぐいっと引いた。
「お、おい、美羽……!?」
「しんみりしちゃう雰囲気だったからさ!
ちょっと気分転換!!ね?」
笑顔を向けると、椿はふっと口元をゆるませた。
「……はぁ……しゃーねぇな。」
その小さな笑顔に、美羽の胸がじんと温かくなる。
*
コンビニの前の公園。
夕陽がベンチをオレンジ色に染めていた。
「ん〜〜っ!おいし〜〜♡」
チョコアイスを食べて幸せ全開な美羽を、
椿は隣でバニラの棒アイスをかじりながら見つめていた。
ふ、と。
椿が笑った。
「……椿くん、やっと笑った!」
「ん?」
不思議そうに眉を上げる椿に、美羽は照れくさそうに笑って言った。
「だって……椿くん、さっきから難しい顔ばっかりしてたから。
少しでも和んでくれたらなって……」
その言葉に椿は目を細めた。
「……悪い。銀狼と秋人のこと考えてた。」
「椿くん……」
「秋人は……中等部のときずっと一緒だった。
まぁでも、あんな別れ方したら、連絡取る気にもなんねぇよ。
日頃から何考えてるのかも分かんねぇ奴だしな。」
椿は空を見上げ、少し笑うでもなく息をついた。
(そっか……椿くんの中では、まだ秋人くんとの関係はうやむやなままなんだなぁ……)
美羽はアイスを握りしめ、小さく呟いた。
「……なんだか、寂しいね。」
椿が横を向いた瞬間、彼の視線が止まった。
「美羽。」
「え?」
次の瞬間――。
椿の顔が美羽のすぐ近くまで寄った。
舌先が、美羽の唇の端についたチョコを――
そっと舐め取った。
「えええええええっ!?!?
つつつ椿くんっ!?!?」
美羽はベンチから飛び上がりそうになり、
顔は一瞬で真っ赤に染まった。
「な、な、な、何するのっ!?」
椿はバニラアイスを持ったまま、
口元で悪戯っぽく笑った。
「……美味そうなの付いてた。」
そして舌で唇を軽くなぞる。
その仕草があまりに色っぽくて、
美羽の心臓は爆発寸前だった。
(む、むむ無理……椿くんのこういうの……反則なんですけどぉ……!!)
視線を逸らして縮こまる美羽に、
椿はふっと優しく声を落とした。
「……ありがとな。心配してくれたんだろ?」
「っ……もう……椿くんの……ばか……」
美羽がうつむきながら言うと、
椿は小さく笑って、美羽の髪をそっと梳いた。
夕暮れの光が、二人の影をひとつに重ねていく。
風が柔らかく吹き抜け、桜の花びらがふわりと舞った。
その公園のベンチには、
恋に落ちてしまったひとりの少女と、
彼女にどうしようもなく夢中な青年がいた。
桜の花びらが風に舞い、歩道にうっすらと桃色の絨毯を敷いていく。
そんな道を、美羽と椿はふたり並んで歩いていた。
けれど、隣を歩く椿はどこか遠くを見るような目をしていた。
(椿くん……やっぱり秋人くんのこと、気にしてるんだ……)
莉子から聞いた話が脳裏によぎる。
あれから秋人は白百合を抜け、人が変わったように素行が良くなり、
春休みにアメリカへ留学したという。
「いいよねぇ、頭の良い双子って!」
莉子は悔しそうにそう言いながらも、
「でもね、お兄ちゃん、今は私にだけ優しいの。」とどこか嬉しそうに話していた。
美羽は椿の横顔を見つめる。
(少しでも気持ちが軽くなればいいのに……)
そんな思いで、とっさに声を出した。
「ね、ねぇ椿くん!……アイス食べない?」
椿は瞬きし、ほんの少し驚いた顔をした。
「あ?……あぁ」
その気の抜けた返事に、美羽はふっと笑い、
椿の手を取ってコンビニの方へぐいっと引いた。
「お、おい、美羽……!?」
「しんみりしちゃう雰囲気だったからさ!
ちょっと気分転換!!ね?」
笑顔を向けると、椿はふっと口元をゆるませた。
「……はぁ……しゃーねぇな。」
その小さな笑顔に、美羽の胸がじんと温かくなる。
*
コンビニの前の公園。
夕陽がベンチをオレンジ色に染めていた。
「ん〜〜っ!おいし〜〜♡」
チョコアイスを食べて幸せ全開な美羽を、
椿は隣でバニラの棒アイスをかじりながら見つめていた。
ふ、と。
椿が笑った。
「……椿くん、やっと笑った!」
「ん?」
不思議そうに眉を上げる椿に、美羽は照れくさそうに笑って言った。
「だって……椿くん、さっきから難しい顔ばっかりしてたから。
少しでも和んでくれたらなって……」
その言葉に椿は目を細めた。
「……悪い。銀狼と秋人のこと考えてた。」
「椿くん……」
「秋人は……中等部のときずっと一緒だった。
まぁでも、あんな別れ方したら、連絡取る気にもなんねぇよ。
日頃から何考えてるのかも分かんねぇ奴だしな。」
椿は空を見上げ、少し笑うでもなく息をついた。
(そっか……椿くんの中では、まだ秋人くんとの関係はうやむやなままなんだなぁ……)
美羽はアイスを握りしめ、小さく呟いた。
「……なんだか、寂しいね。」
椿が横を向いた瞬間、彼の視線が止まった。
「美羽。」
「え?」
次の瞬間――。
椿の顔が美羽のすぐ近くまで寄った。
舌先が、美羽の唇の端についたチョコを――
そっと舐め取った。
「えええええええっ!?!?
つつつ椿くんっ!?!?」
美羽はベンチから飛び上がりそうになり、
顔は一瞬で真っ赤に染まった。
「な、な、な、何するのっ!?」
椿はバニラアイスを持ったまま、
口元で悪戯っぽく笑った。
「……美味そうなの付いてた。」
そして舌で唇を軽くなぞる。
その仕草があまりに色っぽくて、
美羽の心臓は爆発寸前だった。
(む、むむ無理……椿くんのこういうの……反則なんですけどぉ……!!)
視線を逸らして縮こまる美羽に、
椿はふっと優しく声を落とした。
「……ありがとな。心配してくれたんだろ?」
「っ……もう……椿くんの……ばか……」
美羽がうつむきながら言うと、
椿は小さく笑って、美羽の髪をそっと梳いた。
夕暮れの光が、二人の影をひとつに重ねていく。
風が柔らかく吹き抜け、桜の花びらがふわりと舞った。
その公園のベンチには、
恋に落ちてしまったひとりの少女と、
彼女にどうしようもなく夢中な青年がいた。



