危険すぎる恋に、落ちてしまいました。2



秋の空気はすとんと澄みわたっていて、
昼休みの中庭には紅葉色の風がふわりと舞っていた。

ベンチのまわりには、今日も黒薔薇メンバーと莉子、そして美羽が揃っていた。
賑やかすぎる昼休みが、いつものように始まっていく。

 

「ねぇねぇ、美羽ちゃんっ!!その卵焼き!!ひとつちょーだい!!」

悠真が、美羽の弁当箱を今にも落としそうな勢いでのぞきこんだ。

「ちょっと悠真くん!お弁当箱落ちちゃうよ!落ち着いて!
はい、これあげるから!」

「わーい!やっぱり美羽ちゃんの卵焼きは世界一ぃーー!!」

嬉しそうに頬ばる悠真。

その横で遼が、まるで風のような動きで卵焼きを横取りし、
もぐりと口に放り込んだ。

「……あ。美羽ちゃんの卵焼き、うめぇな。
いい奥さんになるねぇ〜」

「ちょ、遼くん!?それ私が食べるやつなんだけどっ!!」

「隙あり〜!」

遼がニヤリと笑い、悠真が「おい、遼!ずるいぞ!!」と泣きわめく。

さらにその隣で、碧が穏やかにほほえんだ。

「美羽さんの料理スキル、本当に恐ろしいです。
この味は……人を幸福にするレベルですね。」

「な、なんでみんな卵焼きにそんなに感動するのよ……!」

美羽は頬を赤くして苦笑した。

すると、なぜか玲央は真顔でノートパソコンを開きながら呟く。

「ふむ。卵焼きの人気は統計的にも極めて高いな。
データ追加……っと。」

「玲央くん、いったいそれどこで活用するの……?」

美羽が引きつった笑みで聞くも、玲央はスルーしてキーを叩き続けた。

そんな騒ぎの中、後ろで莉子がスマホをチェックしながら嬉しそうに声を上げた。

「そういえばね、美羽っ!!
お兄ちゃん、冬休みに帰ってくるって言ってたよ!」

その瞬間。

椿の眉がぴくりと跳ねた。

「……あ?」

ひんやりした低音が空気を震わせる。

美羽の胸がドキンと跳ねた。

(ひ……椿くん、嫉妬してる……?!)

莉子はまるで気づかず続ける。

「しかもね、お兄ちゃん、
美羽に会いたいって言ってたよ!!
美羽モテモテだねぇ~やるぅ~!!」

椿のまわりの空気が、スッ……と一気に冷える。

「あ?……誰に会いたいって?」

「え?だから美羽――」

「莉子、ちょっとスマホ貸せ。」

「ひえっ!?ちょ、ちょっと椿くん!?私のスマホ返して〜!!」

椿は奪ったスマホで、何やら秋人へ鋭いスピードでメッセージを送っていた。

「ええ!!ちょっと、椿くん……?!それ私のLIMEなんだけどぉ!!?」

「うるせぇ。」

低い声に、美羽はどきりとした。

椿がこんなにも露骨に嫉妬しているのを見ると、
胸の奥がじんわり温かくなる。

そんな空気に追い討ちをかけるように――

「え、ちょっと待って!?
秋人くんってば!!いつの間に僕の美羽ちゃん口説いてたの!?
僕聞いてないんだけど!?ライバル増えてるんだけどぉ!!?」

悠真が両手を振り回して大騒ぎし始めた。

「悠真くん!?ち、違うからね!?
何もないからね!?」

美羽が慌てて否定する。

しかし椿がすかさず低音で返す。

「お前の美羽じゃねぇ。」

「いや!僕の美羽ちゃんだしぃ!!
椿ばっかりずるい!!」

悠真はベンチの上でじたばた暴れ、
遼が横で笑い、碧はニコニコ、玲央は淡々とログを取っている。

そして莉子が美羽に抱きつきながら叫んだ。

「美羽〜!お兄ちゃんから狙われてるなんて、どうするの!?
恋のバトル始まっちゃうよぉ!?」

「ちょ、莉子!?話をややこしくしないでぇ!!」

秋の光が、そんな彼らの喧騒の上で揺れていた。




美羽はふっと笑った。
こんなに騒がしいのに、胸の奥は不思議とすごく穏やかだった。

隣を見ると、椿がすこし不機嫌そうにしながら、
でもそっと美羽の手を握ってきた。


「ちっ、秋人の野郎…」

「まぁまぁ、椿くん…」


指先が触れるだけで、秋空が一気にやわらかくなる。

美羽は小さく息を吸い、椿の手をぎゅっと握り返した。


「美羽は、俺のだ。」

「ふふっ。はいはい。」

椿の耳がほんのり赤いのをみた美羽は笑った。


紅葉の舞う風の中で、二人の指輪が
朝の光を受けてキラキラと輝いていた。

この光が、これからの毎日を少しずつ照らしていくようだった。







Fin.