危険すぎる恋に、落ちてしまいました。2

その頃、悠真・玲央・遼・碧の泊まる男子部屋では――
なぜか静かに 枕投げ が始まっていた。

ぽすっ…ぽすッ。

玲央が冷静な顔で枕を投げ、
遼がそれを華麗に避け、
碧は笑顔で受け止め、
悠真はなぜか全力で投げ返している。

「てかさぁ、椿遅くない?」
悠真が枕を抱えながら首をかしげる。

遼はベッドに寝転んだまま、ニヤリとした。
「さぁなぁ~。美羽ちゃんと、よろしくやってんじゃね?」

「は!?!?
僕の美羽ちゃんが椿に襲われてるってこと!??
ちょっと待ってそれは由々しき事態だぁ――!」

悠真が本気で飛び出していこうとしたその瞬間、

ぼふっ!!!

玲央の枕が悠真の顔面にクリーンヒット。

「落ち着け。問題はないと椿から連絡が来ている。
雨宮美羽は風呂でのぼせたらしい。」

「ええ!?のぼせちゃったの!?かわいそうにぃ~
美羽ちゃあああん!!」

悠真は泣きながら碧に枕を投げた。

碧は柔らかく笑って受け止め、
「長風呂はよくないですからね。
美羽さん、色々あったので疲れてたのでは?」
と優しい声で返しながら遼へ枕を投げた。

遼はそれをヘディングで受けながら言う。
「まぁ、のぼせるにも“いろんな意味”があるけどなぁ〜?」

「なんだよ!遼!!破廉恥だぞっ!
美羽ちゃんがそんなやらしい子なわけないだろ!!!」

「ははっ、冗談だっての~!」

「そんな遼には擽りの刑だ!!この!このぉ~!!」

「あはは!お、おい悠真、やめろよっ~!」


男子組は騒がしく枕をぶん投げ続け、
布団の上は羽毛がふわふわ舞い始めていた。




ところ、変わって女子部屋では。

莉子は布団にもぐりながら、
「もう、美羽ったら…椿くんといるみたいだしいいけどさ~。
皆~美羽、帰ってこないし……先にもう寝よ~?」

とクラスメイトたちに声をかけ、電気を消した。

部屋はすぐに寝息の海になった。







*そして、美羽と椿は…

誰もいない特別室のベランダ。
秋の夜風がそっと流れ、外から虫の声が聞こえる。

鼻血もすっかり止まり、美羽は夜空を見上げていた。

「わぁ……綺麗……」

星が、京都の空に吸い込まれるように瞬いている。

椿はその横顔をちらりと見て、くすっと笑った。

「美羽、もう大丈夫なのか?」

「う、うん……ありがと、椿くん。」

美羽はまだ頬が少し赤い。そのくせ目はきらきらしていた。

「――あっ!流れ星!」

美羽は慌てて手を合わせる。

椿は苦笑しながら言った。

「はは、早すぎて間に合わねぇだろ。

で?何願ったんだ。」

「い、言わないよ!言ったら叶わないでしょ!」


ぷいっとそっぽを向く美羽。
その仕草があまりに可愛くて、椿は喉の奥で笑った。


「美羽。」

「な、何、椿くん?教えないよ?」


ゆっくり美羽が振り向いた瞬間――
椿はひとつ深い息を吸った。


「少しだけ目、瞑れ。」

「えっ?な、なんで!?」

「いいから。」


言われるまま美羽はぎゅっと目を瞑る。
夜風の冷たさと、胸のどきどきだけが身体を巡った。


「……開けていいぞ。」


美羽はそっと瞼を上げた。

その刹那。

左手の薬指が、きらりと光った。


「え……っ……!?
つ、椿くんこれ……!!!?」


小さな銀の指輪。
星空の下で溶けるように輝いている。

椿は指先で自分の左手を見せた。
そこにも同じ指輪が光っている。

「俺とお揃い。
まあ、いずれは渡すつもりだったし。
今回のことで俺も色々考えることあったから。
……お前が少しでも不安にならねぇようにってのもあんだけど…、」

椿は照れくさそうに視線をそらした。

美羽の胸が一気に熱くなる。

涙がぽろぽろ落ちた。

「う……え……椿くん……ありがとう……!!
一生、絶対大事にするぅぅ……!!」

「はは、そんな泣くなよ。」

椿は照れながら笑い、
美羽の濡れた頬を親指でそっとぬぐった。

そして額にキスを落とし、抱きしめた。

美羽もそっと腕を回し、

「大好き……椿くん。」

椿は、胸の奥まで甘くなる声で返した。

「……俺も。」

空の彼方では、流れ星がひとつ尾を引いて消えていった。

ふたりの影はぴたりと寄り添い、
旅館のしずかな夜に溶けていった。