危険すぎる恋に、落ちてしまいました。2

雨が弱まり、竹林に薄い光が差し込む。
仲直りの余韻を胸に、椿と美羽は並んで歩きだした。

ふたりの距離は、さっきまでよりほんの少し近い。

美羽は恥ずかしさで頬を指でつつきながら小さくつぶやいた。

「……椿くん、あんまりその…人前で急にキスとかしないでよ……」

椿はニヤリと笑う。

「お前が可愛いのが悪い。」

「っ……!!もー……!」

竹林の間にふたりの声がふわりと響いた。

*

数分後――竹林の出口近く。

「はーーい!撮りますよーーっ!!
真白くんこっち向いて〜!悠真くん入って〜!!遼くんそこ立って〜!!」

莉子のテンションが完全に爆発していた。

そして、その前では――

黒薔薇メンバーと真白が
ぎゅうぎゅうに並んでポーズをとっていた。

真白はピースサイン全開。
悠真はノリノリ。
碧は謎にキメ顔。
遼はなぜかウインク。
玲央は無表情でなぜか決めポーズ。

椿と美羽、絶句。

「……何やってんだ、あいつら。」

椿が眉をひそめる。

すかさず悠真がこちらに気づき、手をぶんぶん振った。

「おー!美羽ちゃん!!椿ーー!!仲直りしたの!?
ちょっと!遅かったじゃーん!写真撮るよ!?」

遼がニヤニヤしながら寄ってくる。

「いや〜美羽ちゃん、雨の中走ってく姿、青春って感じだったわ。」

碧はうんうん頷きながら、

「美羽さん、走るフォーム意外と綺麗でしたよ。」

玲央は冷静に言う。

「データによると、美羽のダッシュ速度は女子平均の1.2倍だ。」

莉子は腕を組みながら、

「もう~!美羽、怒って出ていくから大変だったんだからね?」

真白は美羽を見るなり、ぱぁっと顔を輝かせて走ってきた。

「美羽ちゃんっ!さっきはごめんねぇ〜!
椿にこんな可愛い彼女がいるって知らなくてさぁ!!
あのね、ボクこんな見た目だから、女の子だと思われること多くてさ~!てへ☆」

真白はけろっとしていて反省しているのかしてないのか掴み所がない性格だった。

美羽は目をそらして、

「……うん、もう知ってるからいいの。」

椿がひとことボソッと言う。

「まだちょっと怒ってるだろ……」

美羽はむすっと椿をにらむ。

「椿くんが悪いんだよ?……あとで覚えててね。」

「……へいへい。」

(椿が、完全に尻に敷かれてる……!!!)
黒薔薇メンバーはそっと視線をそらした。

*

そのあと一行は近くの神社へ向かった。

秋の京都らしい赤いもみじの絨毯が続き、空気はひんやりしている。
木々の間からさす光は金色で、まるで物語の中の世界。

皆でお賽銭を投げ、それぞれおみくじを引くことに。

「よし!僕から引くよ!」

悠真が勢いよく引いて――

「ぇぇええ!……大凶……!!??」

一瞬の沈黙。

遼が爆笑した。

「いや、悠真らしいわ〜!!」

碧は冷静に分析。

「ある意味、引くべきものを引いたというか……」

玲央はさらっと言う。

「統計的に大凶を引く確率は……」

悠真は泣きそう。

「みんなひどい〜〜!!美羽ちゃ~ん!!皆がいじめる~!!」

「ええ、じゃぁ、もっかい引こう悠真くん、ね?」

美羽は苦笑いして悠真をなだめる

真白はきゃははと笑って自分のおみくじを広げた。

「あ、ボクは大吉〜っ!さすが可愛いボクだね!!」

椿は自分のを開いて、一言。

「中吉。」

美羽はそっと自分の紙を開いた。

「わ!!……大吉だ!」

嬉しくて笑った瞬間、椿が紙をひょいっと取ってきた。

「見せてみろ。」

「えっ!?だ、だめだよ!私まだ読んでないのにっ!!」

「……ふーん。」

椿はニヤリと笑う。

「……大方、"待ち人"でも読みたかったんだろ?」

美羽は顔を真っ赤にしておみくじを奪い返した。

「な、なんでわかるのっ!!」

「顔に全部書いてる。」

真白が間に割って入る。

「椿〜、相変わらず鈍感でデリカシーないね〜?」

「誰が鈍感だ。」

「えっ、じゃあ鈍感ってこと自覚あったんだ〜?」

「は?」

莉子が真白の肩を叩く。

「真白くんっ♪椿くんいじるのはその辺にしといて、私と一緒に写真撮ってぇ~!!お願い!!」

「いいよいいよ~♪こんな可愛い莉子ちゃんと撮れるなら何百枚でもぉ~!!」

「きゃぁ~嬉しい~♪」

真白と莉子は早速仲良くなったのか、はしゃいでいる。

「いや撮りすぎだろ。」

椿は冷静にツッコミを入れていた。

(この2人……なんか似てるかも……)

美羽は苦笑した。

*

時間は夕方に近づき、集合時間が迫る。

真白はキャリーケースの取っ手をつかんだまま、ふと表情をやわらかくした。

「椿、今日はありがと〜!会えて嬉しかった。
……美羽ちゃんも!またどこかで会えたらいいな〜!」

美羽は驚いて目を瞬かせる。

「あ……うん!真白くん、今日はその……いろいろごめんね。」

真白はにっこり笑い、美羽耳元で囁いた。

「怒った顔も可愛かったよ?椿が美羽ちゃんに夢中なの、わかる気がする。」

「えっ!?」

(真白くん…違う意味で椿くんよりずっと危険な気がする……)

椿は真白の頭を軽く小突いた。

「真白、近ぇよ。もう帰れ帰れ。」

「ふふっ、はーいっ!椿も美羽ちゃんも、これからも仲良くね〜!
じゃ、ボク行くね!」

真白は軽やかに手を振り、別の班の友達のもとへ走っていった。

秋風がふわっと吹き抜ける。

椿が横でつぶやく。

「……やっと行ったか。」

「椿くん、もう少し真白くと一緒にいなくてよかったの?」

「まぁ、またそのうち会えるだろうからな。ただ……」

椿は横目で美羽を見る。

「お前が泣くくらいなら、もうあいつに近づけさせねぇ。」

美羽は胸がきゅっと締めつけられた。

(…つ、椿くん……)

椿は続ける。

「だから……泣くな。俺は、お前だけしか見てねぇから。」

美羽の顔がまた熱くなる。

「……椿くんの、ばか。」

椿は笑い、美羽の頭にそっと手を置いた。

「よしよし。」

「あ、子供扱いしてる!」

「はは、してねぇよ。」

「笑ってるってことは、してるじゃん!」

「はいはい。」

「もー!椿くんっ?!」

竹林の奥で夕日が沈み、金色の光が二人を照らした。
京都の秋は静かで、そして、甘かった。