竹林を駆け抜けると、空はいつの間にか灰色に染まっていた。
細い竹たちが風に揺れて、ざわざわと耳を刺す。
「……っ、なんで、あんな……!」
美羽は息を切らし、涙をこらえながら歩いた。
胸が痛くて、足がもつれそうになる。
(幼馴染?
あんな可愛い子が?
幼馴染でキスなんかするの?!)
ぐっと唇を噛んだ瞬間、
ぽつ、
ぽつ、
と頬に冷たいものが落ちてきた。
「……雨?」
空が泣きだしたように、ゆっくりと細い雨粒が落ちてくる。
人通りも少ない竹林の奥で、美羽はひとり立ち止まった。
(椿くんも悪いけど……
私だって秋人くんのことで疑われて……
もう……なんか頭の中がぐちゃぐちゃ……苦しいよ……)
視界がにじむ。
その時――
「美羽!!」
名前を呼ぶ声が、雨の中を割った。
振り返ると、椿が走ってきていた。
白いシャツは雨で濡れ、前髪は額に張り付いている。
それでも必死に美羽を探していたことが、ひと目で分かった。
美羽は思わず背ける。
「……来ないで。」
椿は少しだけ眉をひそめ、歩みを緩めた。
「来ないでって……お前、何で逃げんだよ。」
「逃げたくもなるよ!あんな可愛い子に抱きつかれて、ほっぺにキスされて……!!椿くんが悪いんじゃん!!」
言い終わると同時に、涙がぽたぽたと雨と一緒に落ちた。
椿は黙って美羽を見た。
じっと、長いまつげに濡れた滴まで見える距離で。
そして――
「バーカ。」
低く短く、でもなぜか優しく。
美羽は睨む。
「ばっ……!?なんで私がバカなのよ!?」
椿は前髪をかきあげ、深くため息を吐いた。
「言っとくけど、真白は男だぞ。」
「…………え?」
雨音が止まったように感じた。
「お、男?」
「ついでに言っとくと、抱きつき魔で、人の話聞かねぇヤツだ。
幼馴染だけど……俺はあいつをそういう目で見たことねぇよ。
てか、お前も最後まで人の話聞けよっ……」
美羽は呆然。
雨に濡れた竹林が、なんだか遠くへひいていくような感覚。
椿は近づき、濡れた髪からぽたぽたと水滴をこぼしながら笑った。
「はぁ……珍しく可愛い妬きもちだな?美羽?」
その一言で、美羽の顔は一瞬で全てを悟り真っ赤になった。
「~~~っ!!」
逃げたくなって後ずさる。
「ご、ごめんなさい……!」
椿はさらに一歩踏み出した。
「美羽、顔見せろ。」
美羽は両手で顔を覆った。
「や、やだっ!!今ぜっっっ対、変な顔してるもん!!」
椿はその手をそっと掴む。
ゆっくり指をほどき、美羽の顔を覗き込む。
濡れたまつげ、赤い目、赤い頬。
全部、椿の瞳に映っていた。
「……ぷっ。」
笑った。
「もう!!笑わないでよ!!!」
椿は美羽のほっぺに、軽くキスを落とした。
「……可愛い。」
「な、なんでほっぺなの…」
むくれながら尋ねる美羽。
椿はニヤリと笑った。
「さあな?口にしてほしかったら、お前から欲しがれよ?」
美羽は爆発するように赤くなる。
「ず、ずるい!椿くんのバカ!!」
バシバシ椿の胸を叩く。
椿はその手を受け止め、笑いながら囁く。
「はいはい。……こっち来い。」
そう言って、美羽の顎をそっと持ち上げ――
椿が唇を重ねた。
雨の音が消えるような、深くて甘いキス。
離れたあと、美羽は呆れたように笑う。
「私って……結局椿くんに翻弄されてない?」
椿は笑った。
「今さら気付いたのか?」
美羽は雨の中で顔を隠した。
「もー……やっぱり椿くんのバカ……」
その言葉すら、甘く溶けていった。
竹林の雨が優しく二人を包む――
そんな、恋が深まる秋の修学旅行の一幕だった。
細い竹たちが風に揺れて、ざわざわと耳を刺す。
「……っ、なんで、あんな……!」
美羽は息を切らし、涙をこらえながら歩いた。
胸が痛くて、足がもつれそうになる。
(幼馴染?
あんな可愛い子が?
幼馴染でキスなんかするの?!)
ぐっと唇を噛んだ瞬間、
ぽつ、
ぽつ、
と頬に冷たいものが落ちてきた。
「……雨?」
空が泣きだしたように、ゆっくりと細い雨粒が落ちてくる。
人通りも少ない竹林の奥で、美羽はひとり立ち止まった。
(椿くんも悪いけど……
私だって秋人くんのことで疑われて……
もう……なんか頭の中がぐちゃぐちゃ……苦しいよ……)
視界がにじむ。
その時――
「美羽!!」
名前を呼ぶ声が、雨の中を割った。
振り返ると、椿が走ってきていた。
白いシャツは雨で濡れ、前髪は額に張り付いている。
それでも必死に美羽を探していたことが、ひと目で分かった。
美羽は思わず背ける。
「……来ないで。」
椿は少しだけ眉をひそめ、歩みを緩めた。
「来ないでって……お前、何で逃げんだよ。」
「逃げたくもなるよ!あんな可愛い子に抱きつかれて、ほっぺにキスされて……!!椿くんが悪いんじゃん!!」
言い終わると同時に、涙がぽたぽたと雨と一緒に落ちた。
椿は黙って美羽を見た。
じっと、長いまつげに濡れた滴まで見える距離で。
そして――
「バーカ。」
低く短く、でもなぜか優しく。
美羽は睨む。
「ばっ……!?なんで私がバカなのよ!?」
椿は前髪をかきあげ、深くため息を吐いた。
「言っとくけど、真白は男だぞ。」
「…………え?」
雨音が止まったように感じた。
「お、男?」
「ついでに言っとくと、抱きつき魔で、人の話聞かねぇヤツだ。
幼馴染だけど……俺はあいつをそういう目で見たことねぇよ。
てか、お前も最後まで人の話聞けよっ……」
美羽は呆然。
雨に濡れた竹林が、なんだか遠くへひいていくような感覚。
椿は近づき、濡れた髪からぽたぽたと水滴をこぼしながら笑った。
「はぁ……珍しく可愛い妬きもちだな?美羽?」
その一言で、美羽の顔は一瞬で全てを悟り真っ赤になった。
「~~~っ!!」
逃げたくなって後ずさる。
「ご、ごめんなさい……!」
椿はさらに一歩踏み出した。
「美羽、顔見せろ。」
美羽は両手で顔を覆った。
「や、やだっ!!今ぜっっっ対、変な顔してるもん!!」
椿はその手をそっと掴む。
ゆっくり指をほどき、美羽の顔を覗き込む。
濡れたまつげ、赤い目、赤い頬。
全部、椿の瞳に映っていた。
「……ぷっ。」
笑った。
「もう!!笑わないでよ!!!」
椿は美羽のほっぺに、軽くキスを落とした。
「……可愛い。」
「な、なんでほっぺなの…」
むくれながら尋ねる美羽。
椿はニヤリと笑った。
「さあな?口にしてほしかったら、お前から欲しがれよ?」
美羽は爆発するように赤くなる。
「ず、ずるい!椿くんのバカ!!」
バシバシ椿の胸を叩く。
椿はその手を受け止め、笑いながら囁く。
「はいはい。……こっち来い。」
そう言って、美羽の顎をそっと持ち上げ――
椿が唇を重ねた。
雨の音が消えるような、深くて甘いキス。
離れたあと、美羽は呆れたように笑う。
「私って……結局椿くんに翻弄されてない?」
椿は笑った。
「今さら気付いたのか?」
美羽は雨の中で顔を隠した。
「もー……やっぱり椿くんのバカ……」
その言葉すら、甘く溶けていった。
竹林の雨が優しく二人を包む――
そんな、恋が深まる秋の修学旅行の一幕だった。



