クラス替え掲示板で悲鳴を上げてから、
新しいクラスの教室へと向かう美羽たち。
美羽と莉子は、新しい教室の前で立ち止まった。
「……よし。入るよ、莉子。」
「うんっ、美羽。いくよ!」
ふたりで扉を引くと、早速ざわめきが広がった。
「……本物だ……雨宮美羽。」
「“戦血姫”って噂の……マジで可愛いじゃん。」
「椿くんの彼女だろ?とんでもねぇ……」
「えぐ……あの顔で最強なんでしょ……?」
男子も女子も、好奇心の目を惜しげもなく向けてくる。
美羽は顔をひくつかせた。
「もう……目立ちたくないのに……」
「ふふっ。美羽、人気者だねぇ!」
莉子が嬉しそうに肘でつつく。
「やめてよ〜、莉子ぉ……こっちは生きてるだけで精一杯なの……」
選ばれた席は、日当たりのいい窓際の一番後ろ。
そして隣は、もちろん莉子。
「わぁっ!美羽の隣〜!最高!!」
「莉子、落ち着いて……!」
美羽は窓を少し開け、
春の風を胸いっぱいに吸い込む。
校庭の桜は満開。
淡いピンクの花びらが陽に透けて、まるで光そのものみたいに見えた。
(春……だなぁ……
でも……あそこ、運動場。ってことは……)
ふと胸が跳ねる。
(体育の時間で……椿くん見れるかも!!)
「あ~!美羽、なんか椿くんのこと想像したでしょ?」
「えっ!?な、なんのこと……っ!」
莉子はニヤァっと笑う。
「椿くんの体操着姿、運動場で見れるかも〜って顔!してた!」
「し、してない!!」
しかし耳は真っ赤だった。
——そんな平和な春の始まりは、
午後、生徒会に向かった美羽を待つ「影」で打ち消されることになる。
*
黒薔薇生徒会室。
花の香りとは無縁の、張りつめた空気。
玲央がパソコンを叩きながら口を開いた。
「……“銀狼(ぎんろう)チーム”が、最近騒ぎ始めている。」
碧の表情が引き締まる。
「銀狼って、黒薔薇と同格と言われているチームですよね。
一度も対立したことはないみたいですけど……」
悠真が肩をすくめる。
「強いらしいよ。黒薔薇と五分か、それ以上。
あんまり関わりたくないタイプだよね。」
「えぇ……また暴走族?」
美羽は眉をひそめる。
その時、椿が静かに口を開いた。
「……銀華狼芽(ぎんかろうが)学園の暴走族だ。
略して“銀狼”。
中等部の頃、秋人とやり合ったのがあいつらだ。」
「! 秋人くんの……あの怪我の事件……?」
美羽の表情が沈む。
遼がため息をつく。
「まじか……じゃあ結構ヤバいじゃん。
何するかわかんねぇぞ、そういう連中。」
碧がさらに補足した。
「聞いたことあります。
強い人材を片っ端からスカウトして、
喧嘩の才能を“買う”……そんなチームらしいですよ。
やってることは窃盗も暴力も犯罪すれすれ……いや、もうアウトでしょうけどね。」
「……もしかすると、戦血姫の噂を聞きつけて動いているのかもしれん。」
玲央が眼鏡の奥から美羽を見つめた。
「雨宮美羽……くれぐれも気を付けろ。」
美羽は小さく息を飲む。
(戦血姫……そんな噂のせいで……?
わたし……ほんとは、ただ平穏に生きたいだけなのに……)
だが、その肩にそっと大きな手が乗った。
「安心しろ。」
椿の声はいつもより低く、
それでもどこか優しかった。
「美羽は……俺が必ず守る。」
ふ、と心の緊張がゆるみ、
美羽は小さく笑った。
「……うん、椿くん。」
窓の向こうで、春風がカーテンを揺らす。
甘くて、少しだけ不穏な春が、静かに幕を開けていた。
新しいクラスの教室へと向かう美羽たち。
美羽と莉子は、新しい教室の前で立ち止まった。
「……よし。入るよ、莉子。」
「うんっ、美羽。いくよ!」
ふたりで扉を引くと、早速ざわめきが広がった。
「……本物だ……雨宮美羽。」
「“戦血姫”って噂の……マジで可愛いじゃん。」
「椿くんの彼女だろ?とんでもねぇ……」
「えぐ……あの顔で最強なんでしょ……?」
男子も女子も、好奇心の目を惜しげもなく向けてくる。
美羽は顔をひくつかせた。
「もう……目立ちたくないのに……」
「ふふっ。美羽、人気者だねぇ!」
莉子が嬉しそうに肘でつつく。
「やめてよ〜、莉子ぉ……こっちは生きてるだけで精一杯なの……」
選ばれた席は、日当たりのいい窓際の一番後ろ。
そして隣は、もちろん莉子。
「わぁっ!美羽の隣〜!最高!!」
「莉子、落ち着いて……!」
美羽は窓を少し開け、
春の風を胸いっぱいに吸い込む。
校庭の桜は満開。
淡いピンクの花びらが陽に透けて、まるで光そのものみたいに見えた。
(春……だなぁ……
でも……あそこ、運動場。ってことは……)
ふと胸が跳ねる。
(体育の時間で……椿くん見れるかも!!)
「あ~!美羽、なんか椿くんのこと想像したでしょ?」
「えっ!?な、なんのこと……っ!」
莉子はニヤァっと笑う。
「椿くんの体操着姿、運動場で見れるかも〜って顔!してた!」
「し、してない!!」
しかし耳は真っ赤だった。
——そんな平和な春の始まりは、
午後、生徒会に向かった美羽を待つ「影」で打ち消されることになる。
*
黒薔薇生徒会室。
花の香りとは無縁の、張りつめた空気。
玲央がパソコンを叩きながら口を開いた。
「……“銀狼(ぎんろう)チーム”が、最近騒ぎ始めている。」
碧の表情が引き締まる。
「銀狼って、黒薔薇と同格と言われているチームですよね。
一度も対立したことはないみたいですけど……」
悠真が肩をすくめる。
「強いらしいよ。黒薔薇と五分か、それ以上。
あんまり関わりたくないタイプだよね。」
「えぇ……また暴走族?」
美羽は眉をひそめる。
その時、椿が静かに口を開いた。
「……銀華狼芽(ぎんかろうが)学園の暴走族だ。
略して“銀狼”。
中等部の頃、秋人とやり合ったのがあいつらだ。」
「! 秋人くんの……あの怪我の事件……?」
美羽の表情が沈む。
遼がため息をつく。
「まじか……じゃあ結構ヤバいじゃん。
何するかわかんねぇぞ、そういう連中。」
碧がさらに補足した。
「聞いたことあります。
強い人材を片っ端からスカウトして、
喧嘩の才能を“買う”……そんなチームらしいですよ。
やってることは窃盗も暴力も犯罪すれすれ……いや、もうアウトでしょうけどね。」
「……もしかすると、戦血姫の噂を聞きつけて動いているのかもしれん。」
玲央が眼鏡の奥から美羽を見つめた。
「雨宮美羽……くれぐれも気を付けろ。」
美羽は小さく息を飲む。
(戦血姫……そんな噂のせいで……?
わたし……ほんとは、ただ平穏に生きたいだけなのに……)
だが、その肩にそっと大きな手が乗った。
「安心しろ。」
椿の声はいつもより低く、
それでもどこか優しかった。
「美羽は……俺が必ず守る。」
ふ、と心の緊張がゆるみ、
美羽は小さく笑った。
「……うん、椿くん。」
窓の向こうで、春風がカーテンを揺らす。
甘くて、少しだけ不穏な春が、静かに幕を開けていた。



